「それはそうと、もうすぐ完全下校の時刻よ。だから、二人とも、今日最後の仕事。手を抜かないで、しっかりね」
そう言った優花に対して、ほぼ同時に返事をした睦美と翔太は、掃除道具入れへと向かう。そして、菜乃専用の便所掃除道具を手にすると、ふたたび戻ってきた。もちろん、手には掃除用手袋をしっかりとはめて。
「それじゃあ、菜乃ちゃん。疲れただろうから、手早く済ませちゃおうね」
そう言った菜乃は、翔太の方へ向き直る。
「ほら、あんたはファスナー降ろしなさいよ」
それは、とげのある、少しキツい口調だった。翔太をはじめ、男子生徒たちが菜乃の口中に射精をしていること、そして、さきほど「かわいい」と言いかけたことが、どこか気に食わなかったためだ。
「あ、ああ、わかったよ……。なんだか、相変わらずアタリがキツいなぁ」
だが、そうぼやく翔太とともに、二人で菜乃の便器装束を脱がせ始めた。
「御手洗さん。今日は何回しちゃったかしら?」
やがて露わとなった、菜乃の穿かされているパンツ……、いや、有り体に言えば紙オムツを見ながら、優花が尋ねた。
「多分、七回ぐらいだと思います……」
「オシッコだけ?」
「は、はい……」
優花の問いに、菜乃は少しどもりながらも、そう答えた。なぜならば、別の液体までをもしとどに溢れさせてしまったことを、教師に見抜かれており、そのことを指摘されたと思ったからだ。
しかし、実際にはそうではなかったようだ。
「じゃあ、今日はウンチはしていないのね?」
「は、はい……」
「まぁ、少なくとも、オシッコだけだったら、大丈夫そうね。パッケージに書かれてるよりも多かったけど、しっかり受け止めてくれてるみたいだし」
優花の言葉が途切れたことを受けて、もうこの話は終わったと思ったのだろう。睦美は、ふくらみきったその紙オムツの両サイドを破ると、そのままはぎ取った。
ふたたび、全裸姿へとされてしまった菜乃。そんな彼女のことを、睦美と翔太が、丁寧に時間をかけて磨き上げていく。もっとも、そのための道具は、湿らせた雑巾と、便器ブラシだったのだが。
最後に、乾いた雑巾で水分を取り除かれた菜乃は、少なくとも表面上は、ごくごく普通の裸体になっていた。
「それじゃあ、あとは制服に着替えるだけだよ。それも、便器係の私たちが、全部やってあげるからね」
そんな睦美の宣言通り、掃除用手袋をはめた二人の手によって、ショーツやブラジャー、ブラウスにスカート、そしてシングルイートンの上着が着せられていく。
「はい、終わり。菜乃ちゃん、おつかれ」
とうとう、クラスの便器に対する、すべての後片付けが終わったのだ。今の菜乃は、どこから見ても、普通の女子生徒に過ぎなかった。もっとも、その口から発せられる異臭は、相も変わらずだったのだが。
「ありがとう、睦美ちゃん、翔太くん」
便器係の二人にされるがままになっていた菜乃は、そうお礼を言ったが、その実、少し意外に感じてもいた。てっきり、クラスの便器として、いついかなるときも便器装束のまま過ごすことになると考えていたためだ。よもや、ふたたび制服に着替えさせられるとは思っていなかった。
「あの、先生……。なんで、制服に……」
その疑問を、思わず口にした菜乃だったが、それに対して優花が優しげな声で答えた。
「あら、御手洗さんはクラスの便器なのよ。だから、学校の時間だけ、便器なの。学校が終わっちゃったら、便器じゃないんだから、便器装束のままっていうのは、おかしいでしょ?」
わかったような、わからないような理屈だが、それでも菜乃は、コクリと頷いた。
「それじゃあ、便器係として、本当に今日最後の仕事。御手洗さんを家まで送ってあげてね」
「はい、はい! あたし! あたしが送ります!」
翔太を差し置いて、そう主張した睦美だったが、優花には認められなかった。
「たしか、植野さんは自転車通学だったわよね? 武藤くんは、徒歩通学だったと思うけど?」
「はい、そうです」
「それじゃあ、武藤くんにお願いできるかしら?」
「はい、わかりました」
「えー、先生、ずるいよ。たしかに、あたしは自転車だけど、押してくから大丈夫だって。菜乃ちゃんと、一緒に歩いてくから」
「だめよ。ちゃんと、自転車に乗って、帰りなさい。たしか、植野さんは川向こうだから、遠いはずでしょ? はやく帰らないと、暗くなっちゃうわ」
「でも……」
それでもごねていた睦美だったが、優花の主張を押し返すことはできなかった。それから数分後。校門まで見送りに来た担任教師の手前もあってか、睦美は渋々ながらヘルメットを被ると、自転車で帰って行った。去り際に、「菜乃ちゃんに変なことしたら、承知しないからね」という捨て台詞を吐いて。
「変なことってなんだよ……」
そう、小さくぼやいた翔太だったが、ほんの少しの間、突っ立ったままだった。かたわらにいる菜乃には目を合わせようともしない。だがそれは、気恥ずかしさによるものだったのだが、それを知ってか知らずか、優花が声をかけた。
「ほら、武藤くん。ちゃんと、御手洗さんと手を繋いであげて。便器係として、クラスの便器をちゃんと送り届けないといけないんですからね」
その言葉に、少し頬を染めた様に感じた翔太だったが、それでも黙ったまま手を差し伸べる。
「でも、いいの、翔太くん? 手袋はめてないのに、私と手なんか繋いで……」
「そんなの、構うわけないだろ。だって、御手洗は……御手洗だし……」
相も変わらずつっけんどん。だが、その言葉の内側に優しさを感じ取った菜乃は、嬉しそうな表情を見せると、彼の手を取った。
二人とも黙ったまま。だがそれでも、しっかりと手を携えたまま、帰宅の途についた菜乃と翔太。だが、やがて、その沈黙が破られた。
「ゴメン、御手洗。オレ、その……、ションベンしたくなっちまって……。だから、そこに寄りたいんだけど」
その視線の先には小さな公園があり、その中にコンクリート造りの公衆便所が建っていた。
「うん、わかった。小便器になって欲しいのね?」
「いや、そうじゃなくって、そこの公衆便所を使うから」
「ひどいわ、翔太くん。私という便器がありながら、他の便器を使うの?」
「だけど、御手洗がクラスの便器なのは、学校の時間だけで、それ以外は……」
「うん、たしかにそうだけど……、そうなのかもしれないけど……。でも、翔太くんの便器にだったら、いつでも、どこででも、なりたいと思うから……」
そう言った菜乃は、彼のことを真正面から見据えていた。
「御手洗……」
「こんな、オシッコを飲んで、ウンチを食べちゃうような女の子なのに、翔太くんにこんなことを言うのは、すっごく失礼だってことはわかってるわ。でも、それでも……」
そこで、一呼吸置いた菜乃。それは、そこまで言っても未だ決心がつきかねていたためだった。だが、ようやくのことで、そんな気持ちを押しのけて、言葉を続けた。
「私、翔太くんのこと、大好き。昔っから、ずっと、ずっと……。恋人になってとは言わない。でも、大好きな翔太くんの便器を、ずっとさせてもらえたら……」
そこまで言って、感情があふれ出てきたのだろう。悲しくもないのに、一筋の涙が、菜乃の頬を伝った。
「オ、オレもだよ……。オレだって、昔っから、御手洗のことが……」
そこまで言った翔太。少し戸惑いはあったものの、男の決心を見せる。
「オレの方こそ、お願いします。恋人に、なってください……」
「はい、翔太くん……」
どちらからということもなかった。菜乃も翔太も、そっと瞳を閉じると、お互いの顔を近づけていく。そして、唇を重ねていった。相も変わらず、悪臭を放ち続ける菜乃の口だったが、そんなことなど、翔太は気にも留めない。お互い初めてのこととあって、単純な肌接触以上にはなり得なかったものの、二人とも胸の高鳴りを抑えきれなかった。
どれぐらいそうしていたのだろうか。ふたたび自然な感じで、二人は、その柔らかな感触に別れを告げた。
「御手洗……」
「ううん。前みたいに、呼んで……」
「菜乃ちゃん……」
「嬉しい、翔太くん……」
そう言うと菜乃は、翔太を魅了する微笑みをふたたび見せた。
「翔太くんだけの便器には、なれないわ。私はクラスの便器だから……。でも、翔太くんにだったら、学校じゃなくっても、いつでも、どこでも……。そして……、いつかクラスの便器じゃなくなったときには、翔太くんだけの便器になりたいの……」
そう言った菜乃は、ふたたび翔太の手を取ると、公衆便所へと誘った。これからふたたび、菜乃を小便器として使うことになる……、その結果、オシッコはもちろんのこと、それとは別の液体をも放つことになるだろうと確信しつつも、もはや彼は、その誘いを断ろうなどという気もなくなっていた。
いつの日か、菜乃が、翔太専用の便器になる日が来るのだろうか。そして、もしそうなったとしたら、それはいつまで続くのだろうか。高校生になっても、大学生になっても、そしてその先も……。
それは不確実な未来だった。だが、タキシードに身を包んだ翔太と、純白の便器装束に覆われた菜乃が、永久の愛を誓い合う日がやってくる……。そんな確信めいたものを、二人とも抱かずにはいられなかった。
(了)
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