令和四年十二月。すっかり冬の様相を呈した、そんなある日のこと。
とある小学校の教室で、テレビの撮影がおこなわれていた。といっても、ドラマの撮影ではない。ニュース番組の一コーナーで放送されるレポートもの。とはいえ、生放送ではなかった。
女性レポーターが一人、男性ディレクターが一人、カメラマンが二人、その他スタッフが数人という陣容で、彼らは地元ローカル局のスタッフたち。だが、撮影したものは、キー局を通じて全国放送されるとともに、ネット配信されることも、事前に伝えられている。
スタッフたちは、教壇に集まっていたが、その中心に、一人の少女が立っていた。髪をショートにしているにもかかわらず、あまり活発そうに見えないのは、かけている黒縁のメガネのせいだろうか。レンズの厚みから、相当に度が強いと見えるが、どこか真面目さを感じさせる彼女には、垢抜けないそれが似合っているようにも思える。
そんな、ライトを当てられ、カメラを向けられている同じクラスの女の子のことを、他の児童たちは自分の席に座ったまま、おとなしく見ていた。また、担任の教師も、教室の脇に立ったまま、黙って見ている。
「それでは、レポートのオープニングは撮ったので、インタビューの収録から再開します。まずは、自己紹介から。用意、スタート!」
ディレクターの合図を受けた女性レポーターに促されるまま、顔をほのかに赤く染めている少女が、口を開いた。
「久利戸理子、十一歳。花見野市立健優小学校六年一組……」
そこで言葉が止まる。だが、それもほんの一瞬のこと。頬の朱が少し増したようにも思えたが、少なくとも表面上は何事もないかのように続けた。
「令和四年度全裸教育児です」
そう言い切ったのと同時に、それまで顔のアップを撮っていたカメラマンが、少し後ずさりをする。「全裸教育児」の意味を、視聴者に、より明確に伝えるには、理子の全身を撮影する必要があったためだ。
レンズが捉えた少女は、トップスやボトムスはもちろんのこと、下着類を含め、「服」というものをまったく身に着けていない。その姿は、自分で言ったとおりの全裸。
だが、厳密に言えば、少し違っただろうか。黒縁のメガネは置いておくとする。そのうえで、裸足ではなく、ソールとヒールの部分が赤色をした上履きを履いていた。さらには、あるモノをも装着していたのだが……。
とはいえ、それらは全体からすれば、些末なこと。理子の姿は、やはり全裸というべきだったろう。なにしろ、それらのものは、幼女から年頃の少女へと羽化しはじめた身体を覆い隠すには、まったく役立っていなかったのだから。
すでに思春期を迎えた少女ならば、全裸姿など、親に対してすら見せたくないと考えてもおかしくないはずだ。ところが、そんな隠すべき裸体を、クラスメイトたちにも、テレビスタッフたちにもさらけ出している。それどころか、数時間後には、テレビやネットを通して、全国の視聴者……、いや、全世界の視聴者にも披露してしまうこととなるのだ。
それは、普通に考えればあり得ないことだった。だが、あり得ないことがあり得てしまう理由を、レポーターが伝えていく。
「久利戸さんは、今年度からはじまった、健康優良児育成のための全裸教育特区制度によって、全国でもただ一人、全裸教育児に選ばれました。そんな久利戸さんは、今年の春、つまり六年生になって以来、全裸生活をおくっているそうですが、今日は久利戸さんに、全裸教育児としての生活について、いろいろと聞いてみたいと思います」
ひとしきりそう説明すると、マイクを理子へと向け、話を続けた。
「久利戸さん、こんにちは」
「こんにちは」
少なくとも表面上は、落ち着いた様子で、返事をする理子。インタビューの内容は、事前に指示された「演出」に基づいており、そのことは彼女にもわかっていたからだ。
「久利戸さんは、はじめての全裸教育児ということですが……、自分が選ばれたときには、どう思いましたか?」
「はい、私なんかが選ばれたことに、すごくビックリしました。でも、みんなを代表して、私一人だけが全裸教育児に選ばれたことは、とっても嬉しかったです」
よどみなく、そう答える理子。だが、それは本心などではなかった。
質問内容はあらかじめ伝えられていたが、答えはテレビ局によって用意されたものではない。それでは、「やらせ」になってしまう。だから、基本的には、理子自身が考えたものということになっていた。
しかし、小学校六年生の少女が、自分一人でそんなことを考えられるわけもない。実際には、教師たちと「相談」して決めることとなったが、そこに、大人による思惑や忖度が含まれないはずもなかった。
実際には、嬉しいどころか、ビックリすることすらできなかったのだ。なにしろ、自分が全裸教育児に選ばれたということを、事前にはまったく知らされていなかったのだから。
しかし、理子の本心などまったく関係なく、インタビューは続いていく。
「でも、この格好だと、久利戸さんの成長具合がよくわかりますね。お胸も、ちょっと膨らんできてるのかしら?」
「はい、ありがとうございます。まだまだ小さくて、少し恥ずかしいですが……」
「まだ六年生ですもの。これからもっと大きくなりますよ。ところで、こうやって、みんなに見てもらうことも、健康優良児育成には欠かせないとのことですね」
「はい。健康であることはもちろん、身体が健やかに成長することも、健康優良児には必要とのことです。だから、みなさんにいつも見ていただいて、ご指導いただくためにも、全裸で生活する必要があるそうです。そのために、全裸教育特区が作られたと聞いています」
理子は勉強が好きで成績も良かった。そのため、数回も繰り返せば、これくらいの答えを暗記するなど、簡単なこと。もっとも、よどみなさすぎて、逆にわざとらしすぎるとも思えるが、役者ではない以上、そこまで求めるのは酷だったろう。
「乳首も、ぷっくりと膨らんで……、立派に成長しているようですね」
「ありがとうございます」
「あと、お股の間の突起も、ものすごく大きいですね」
レポーターは、一筋の縦割れに過ぎない理子の割れ目から暴力的に飛び出している、真っ赤に充血したクリトリスを見つめながら、そう言った。
「はい。このクリちゃん……、正式には陰核って言いますが、私も、クラスのみんなも、クリちゃんって呼んでます。このクリちゃんは、私の自慢なんです。ものすごく立派に成長しているって、先生も、みんなも、褒めてくれるんです」
「なにか、大きく成長させるコツとか、あるんですか?」
「コツかどうかはわかりませんが、大きく成長するように、毎日欠かさず揉んであげています。あっ、乳首もそうです」
「そうなんですね。さすが全裸教育児に選ばれるだけあって、久利戸さんはがんばり屋さんなんですね」
「ありがとうございます」
「でも、乳首には名札と、安全ピンが刺してあるけど……。それに、えっと、クリちゃんにも付けられているけど……、痛くないの?」
そんなレポーターの質問、特に「名札」という言葉を聞いて、理子はあの日のことを、まざまざと思い出していた。
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