ついに露わとなった少女のパンツをチラリと見て、冴子は逆に戸惑ってしまう。それは自らが想像していたような、低中学年の子が穿くような幼げなものではなかった。デザインからして、真綾の身に着けていたファーストブラと同じシリーズなのだろう。いわゆるジュニアショーツであり、まさに彼女のような年齢の女の子が身に着けるにふさわしいものだった。そのうえ、清純な白色をしているその表面には、当然のように染みなどどこにも見当たらない。パッと見る限りでは、恥ずかしがる要素などなにひとつないように思える。
保健教諭は、絶対とも思っていた自分の予想が外れたことに困惑していた。だが、それは考えても仕方がないことだった。大人の自分にはわからないような、少女には少女なりの理由があったのだろう。そのことはもう忘れることとして、傍らに置かれた記録用紙を挟んだボードに視線を移そうとしたその時、なにか違和感を抱いた。
吸い寄せられるように、再び少女のショーツに目をやった冴子は、それでも最初は違和感の理由がわからなかった。わからなかったというよりも、認識できなかったという方が正しいのかもしれない。あまりに想定外のことが起こると、目では見えているにもかかわらず、脳がそう認識しない場合があると聞いたことがあったが、まさにそれが起きていたのかもしれない。
少女の、清楚で愛らしいジュニアショーツの表面に、あってはならない膨らみが見て取れた。なにかが、薄手の生地を内側から押し上げている。
「せ、先生……」
視線に気づいたのだろう。真綾が切なげに声を上げた。
「大鷲さん、あなた……」
「み、見ないで……、お願い……」
保健教諭という職業柄、このような状況を目にするのは初めてではない。それどころか、幾度となく見たことがあった。だがそれは、男子児童の場合であり、そうであれば何ら不思議でもない。しかし、真綾は男子児童などではなかった。なら、この盛り上がりは一体……。
「いや、いや、いや……!」
真綾は突然、半狂乱になったように叫びだした。そして、両手でその膨らみを覆い隠すと、その場にうずくまってしまう。もはや本格的に泣きだしており、その身を震わせていた。
しばし茫然としていた冴子だったが、不意に自らもしゃがみ込むと、真綾のことを抱きしめた。それは、職業意識がさせたものなのか、それとも母性本能が為したことなのか、それはわからない。だが、そうせずにはいられなかった。
「ねぇ、真綾ちゃん。大丈夫だから。落ち着いて……」
知らずのうちに下の名前で呼んでいたが、それは愛おしさがさせたことだったのだろう。小刻みに震えながら泣いている少女の背中を、優しく撫でさする。
「真綾ちゃん、大丈夫。大丈夫だから……。先生がついているから……」
まるで幼子をあやすように、優しく、ゆっくりと言い聞かせる。
そのうち、少し落ち着いたのだろうか、真綾の泣き声が収まっていった。それを見計らって、冴子は手の動きを止める。そして、少女の耳元に唇を寄せると、こう告げた。
「ごめんなさい、真綾ちゃん。いきなりお股を見つめられて、きっとビックリしちゃったのよね」
核心を突いたその言葉に、真綾は身を固くした。そして、冴子から離れようとする。だが、そんな彼女の動きを押しとどめるかのように、話を続ける。
「ねぇ、真綾ちゃん。誰にも言えなくて、悩んでたんじゃないの。もしよかったら、先生、相談に乗ってあげるから……」
腕の中で、真綾が顔を上げた。その表情は羞恥と不安に覆われていたが、その目はなにかすがるような眼差しを見せている。冴子は、自分の考えが正しかったことを確信した。
「ホント?」
幼子のような、頼りなげな声でそう問いかける少女を、冴子は今一度抱きしめた。
「ホントよ。先生、真綾ちゃんの役に立ちたいの」
「私のこと、笑ったり……、変に思ったり……しない?」
「もちろん、しないわよ」
「誰にも……、言ったりしない?」
「もちろんよ。だから、安心して話して欲しいの。ねっ、真綾ちゃん」
真綾は、小さいながらも、はっきりと頷いた。
「じゃあ……、あっちのベッドに行きましょう。ここじゃあ、お話ししづらいから」
冴子は、衝立の向こうにあるベッドへと、真綾を誘った。そして、ベッドの端に彼女を座らせると、自らはその前にしゃがみ込んで話を続ける。
「それじゃあ、真綾ちゃん。お話を聞かせて。なんにも恥ずかしがることなんかないから、ねっ?」
真綾は頷いたものの、それでも口を開かない。話してしまいたいという気持ちと、話してはいけないという気持ちがせめぎ合っていることが、冴子には見て取れた。
「ねぇ、真綾ちゃん。先生は大人だし、保健の先生として、いろんな子の、いろんなことを見てきてるのよ。だから、きっと、真綾ちゃんの役に立てると思うの。恥ずかしいのかもしれないけど、ちゃんとお話しして欲しいな」
その言葉に、真綾は再び目を潤ませると、堰を切ったように話し始めた。
「わ、私……、前はこんなじゃなかったんです。でも、気づいたらこんなに大きくなっちゃってて……。昔は知らなかったけど、こんなの、女の子なのにおかしいって……。パパにも、誰にも相談できなくって……。私、私……、もう、どうしたらいいのか……」
ついに話してしまった真綾だったが、理路整然と説明することなど、到底不可能だ。後は泣きじゃくるばかりだが、冴子にはこれで十分だった。少なくとも、かわいらしいジュニアショーツを押し上げる膨らみは、ダミーなどではないことがはっきりとした。そうであるならば、それがなにかは見当がつく。とても信じられないような話だが、それ以外には考えられない。
「真綾ちゃん。落ち着いて。先生、よくわかったから……」
再び抱きしめながら、冴子は続ける。
「お父さんには言いづらいと思うけど、お母さんには相談したの?」
「ママは……、いないんです……」
「そ、そうなんだ。ご、ごめんね……」
これは失言だっただろう。離婚なのか死別なのかそれはわからないが、その言葉を元にすれば、彼女には父親しかいないということになる。知らなかったとはいえ、酷なことを言ってしまったと、冴子は思った。だが、彼女がここまで思い詰めてしまった理由も、これではっきりした気がする。思春期を迎えた多感な年頃の少女が、母親ならまだしも、男親にこんなことを相談できるわけもない。
「ねぇ、真綾ちゃん……」
冴子は、自分が緊張していることに気がついていた。ここが一番重要、そして非常にセンシティブな部分であると自覚していたからだ。
「先生に……、真綾ちゃんのお股、確認させて欲しいな」
冴子の方に向き直った真綾は、目を見開いていた。彼女からすれば、とても承諾できるようなことではなかったのだろう。
そのことに気づいて、慌てて言葉を続ける。
「……もちろん、恥ずかしいことはわかるわ。見られたくないって真綾ちゃんの気持ちも、当然だと思うの。でもね……、このままじゃ、何も変わらないでしょ? 先生はお医者様じゃないけど、でも保健の先生として、少しは役に立てると思うの。だから、ねっ。一度見せて欲しいな」
再び目を反らし、黙りこくっていた真綾だったが、やがて小さく頷いた。
「いいのね?」
やはり、コクリと頷く。
「それじゃあ、真綾ちゃんのパンツ……、自分で脱ぐ? それとも、先生が脱がせてあげた方がいい?」
口の中から水分がなくなり、舌と喉が貼り付くような感覚を、冴子は抱いていた。心臓が早鐘のように鳴り響いていたが、もちろん表面には出さない。自分が興奮しているということを、彼女は不本意ながら認めざるを得なかった。
「脱がせて……ください……」
少女はそう言うと、目を固くつぶってしまう。どちらにしても大差がないようにも思えるが、それでも自ら能動的に脱ぐ方が恥ずかしいのだろう。
「それじゃあ、脱がせるからね?」
拒否がないことを同意と受け取った冴子は、少女のジュニアショーツへと手を伸ばした。そして腰ゴムへと手をかけると、そのまま一気に膝まで下ろしてしまう。意識してなのか、それとも無意識なのかはわからないが、腰を浮かせてくれたおかげで、それは難なく行うことができた。
こ、これは……。ついに白日の下にさらされた真綾の秘部を見て、冴子は言葉を失った。産毛すら生えていないツルッとした股間から、女の子には考えられない器官が生えていた。彼女が身震いをする度に、それに合わせて揺れ動くその様から、視線を離すことができない。
少女の股間から見事に伸びている棒状の器官は、どう見ても男性器に他ならなかった。よもや、特殊メイクかなにかではないかとも思ったが、もちろんそんなことはないようだ。うっすらと静脈を透けさせた胴体部分は、まだ色素沈着もしておらず、他の肌同様の白さを見せている。その一方で、見事に剥けあがったその先端部はほのかな赤みを帯びており、鰓の張った亀頭部には鈴のような縦割れが走っていた。その棒状器官の根元には、皺の寄った袋状のものがぶら下がっており、本来あるべき縦割れが見当たらない。同年代の男の子のそれよりも、はるかに立派であろう逸物に、思わず視線を奪われてしまう。しかも、これで萎えた状態なのだ。
さすがに冴子も、発すべき言葉をすぐには思いつかなかった。
「せ、先生……?」
自らの秘すべき部分をさらしたにもかかわらず、何も言わない彼女のことをいぶかしく思ったのだろう。真綾が声をかけてきた。相も変わらず、目は固く閉ざしたままでだ。
「ま、真綾ちゃん……」
冴子は、思わず唾を飲み込んだ。よもやこれほどとは……。だが、そんな立派な逸物に、心の昂ぶりを感じていることも、彼女は十分理解していた。
「あ、あのね、真綾ちゃん……。いつ頃から、こんな風になったのかなぁ? 前からこうだったの? それとも、最近のこと?」
そんな、淫らで醜い心を悟られまいとするかのごとく、彼女は少女へと問いかけた。あくまでも、真綾のことを親身になって心配している、保健教諭でありつづけようとする。
「ち、小さいときから……、お股からどんぐりみたいなのは飛び出てたんです。でも、みんなもそうなんだと思ってたの。うちはママがいないから、誰も教えてくれなくって……」
閉じたままのまぶたから、涙が一筋こぼれる。身を焦がさんばかりに恥ずかしいことは、彼女の表情を見れば一目瞭然だった。それでも、藁にすがる思いで、冴子に秘密を打ち明けているのだろう。
「……でも、春休みぐらいから、急に大きくなりだして……。先っぽはこんなになっちゃうし、クルミの殻みたいな袋は出てきちゃうし……。自分のお股なのに、とっても気持ち悪くって……。それに、ネットで調べたら、こんなの女の子にはないってわかったから……。もう私、どうしたらいいのか……」
真綾の気持ちは手に取るようにわかる。大人の自分でも、こんなものが生えていたら、死ぬほど恥ずかしいだろう。ましてや、多感な年頃の少女にとっては、見るだけでも汚らわしいに違いない。冴子は、そう思わずにはいられなかった。
だが、その立派すぎる逸物を見るうちに、別の疑念が頭をもたげてきた。
「ねぇ、真綾ちゃん。あの……、恥ずかしい質問だと思うんだけど……」
冴子は、真綾のことを気遣うかのように、慎重に問いかけた。
「真綾ちゃん、生理……は、きてるのかな?」
恥ずかしがりながらもはっきりと頷く少女の姿に、冴子は天を仰いだ。こう見えて真綾は、実際には男の子なのではないかと考えたのだ。だが、その考えは淡くも消え去った。
しかし……、と冴子は思った。生理があるとして、膣穴はどこにあるのだろうか。一見した限りでは、女の子の縦筋は見当たらない。
「真綾ちゃん、ちょっと触るわよ……」
再び、拒否されないことを同意と見なした冴子は、おもむろに少女の秘部へと手を伸ばした。そして、フニャフニャとしたタマ袋へ手を添えると、ゆっくりと持ち上げていく。
果たして、その隠れた部分にくっきりと刻まれたクレバスを見いだしたとき、冴子もさすがに度肝を抜かれた。身体に似合わずグロテスクなほどの異形を見せている逸物に対し、その割れ目は一筋に閉じ合わさっていた。それは年齢相応なたたずまいだったが、その内部に女の子の穴があるであろうことは容易に推測できる。
「せ、先生……。くすぐったいです……」
その言葉に、冴子は慌てて手を離した。割れ目を開いて中を確認しようかとも思ったが、そこまでする必要もないだろう。だが、それとは別に、知っておきたいことがあった。
「もうひとつ、教えて欲しいことがあるんだけど……」
こんなことを聞けば、真綾が嫌がるであろうことは容易に想像できた。だが、自分の仮定を確認するためにも、どうしても聞いておきたかったのだ。
「真綾ちゃんがオシッコするとき……、割れ目から出てくるの? それとも、オチ……じゃなくって、棒の先から出てくるの?」
これ以上は、と思うほどに真っ赤になっていた真綾の顔が、さらに赤く染まったように思えた。さすがに答えてくれないかと思ったのだが、もはや冴子にすがりきってしまっているのだろう、小さい声ながらはっきりと答える。
「棒の先から……です」
「昔から?」
小さいながらも、真綾ははっきりと頷いた。
冴子は、自らが容易ならざる状況に関わってしまったことを、今更ながらに痛感していた。こんなことがあっていいものだろうか。明らかに真綾は、男性器と女性器の双方を有しているように思えた。
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