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第四話 オシッコ

「そ、それでは……、お、オシッコ……から、始めたいと、思います……」

 純枝は、言葉も途切れ途切れにそう宣言すると、ついにその行為を始める。

 下半身をさらけ出したまま、軽く身震いすると、その愛らしい割れ目から薄黄色の液体をほとばしり出させた。

 このお手本のために、昨晩から我慢し続けていたオシッコが、際限なく溢れ出してくる。少し俯きがちの少女が、羞恥に打ち震えていることは明らかだったが、もはやこうなってしまっては、自らの意思で放尿を止めることは不可能だった。

「おおっ、すげぇ! 女子って、こんな風にオシッコするんだ……」

 ついに始まった、異性の同級生の放尿姿に、男子たちは、またも口さがない言葉を投げつけていく。

「オレたちの前だっていうのに、こんな恥ずかしいこと、よくできるよなぁ」

「それにしても、山村さんのオシッコ、すげぇ勢いで出てくるよ。オレたちに見てもらいたくって、ずっと我慢してたのかな?」

 もちろん、聞こえていないということはないはずだ。だが、そんな男子たちの揶揄などまるでないかのように、純枝がお手本として話を続ける。

「お、女の子の皆さんはわかっていると思いますが、私たち女の子の、お、オシッコは、割れ目から出た後、前の方に向かって飛びます。ですから、バケツを跨ぐときは、オシッコの落ちる位置をよく考えて、バケツの中央ではなく、少し後ろ気味にしゃがみ込むように、気をつけてください……」

 教室中に響き渡る、小気味よい水音。周囲には、鼻をくすぐるような臭いまでも漂ってくる。

 それは、まさに異常な光景だった。学校の教室で、下半身丸出しになって、バケツに放尿を続ける女子生徒。しかも、ご丁寧に、その注意点まで解説しているのだ。

 そして、そんな彼女を取り囲む男子生徒たち。さらには、そんな状況にも関わらず、手を出せずにいる美香。それはまるで白昼夢を見ているかのようであった。真面目な性格の純枝が、まさかこのような行為に出るなどということは、考えられないことだった。

 だが、少女自身も、恥ずかしくて仕方がないのだろう。ずっと俯いたまま、バケツに腰を下ろして、尿意を解き放っている。説明自体は終わってしまったようで、唇を軽くかみしめ、黙ったままである。

 美香は、軽い立ちくらみのような物を感じながら、その光景を見つめていた。なんとしてでもやめさせなければ……、そんな焦燥感が募るばかりで、やはり身動きできずにいる自分に、歯がゆい思いを抱きながら。

「ふ、ふうぅっ……」

 どれくらいが経過したのであろうか。永遠のようにも感じられたが、実際には一、二分程度であっただろうか。水音が止まり、純枝が安堵の声を漏らす。放尿が終わったのだ。

 少女はそのまま立ち上がった。その割れ目には、幾ばくかの水滴が、蛍光灯の光を浴びて煌めいている。

 男子たちは、その様をまじまじと見つめていた。そして、好奇心に駆られた幾人かが、教卓に置かれたバケツの中身をのぞき込んだ。

「すげぇ……。もうすぐで溢れんじゃね……?」

 その言葉が、純枝の心に突き刺さる。溢れる、はさすがに言い過ぎにしても、バケツの中で蛍光灯の光を受けて揺らめいている液体は、少なくとも三分の二ほどの量にはなっていた。その様を見て、自分がどれだけ大量の尿をため込んでいたのか、今更ながらに思い知らされていた。

「ね、ねぇ、山村さん……? これで終わり? 終わりよね? だったら、早くパンツとスカートを……」

 美香自身もショックを受けながら、それでも、下半身を覆うようにと、純枝を促していく。やってしまったことは仕方がない。だが、いずれにせよ終わったのだ。であれば、一刻も早く、パンツとスカートを身に着けさせたかった。

 しかし、美香のその言葉に、純枝は不意に何かを思い出したかのようだ。下半身丸出し、オシッコの滴を股間に煌めかせ、教卓の上に突っ立ったまま、不意に再び説明を始める。

「先生の今の言葉で思い出しましたが、ブリキのバケツに用を足すときは、パンツとスカートは全部脱いでください。つまり、今の私の格好が、バケツに用を足す場合の正しい姿になります。その理由は、パンツやスカートに、お、オシッコ……などをかけてしまわないようにするためです。先ほどもお話しましたが、災害でおトイレが使えないということは、水が使えないということです。ですから、パンツやスカートを汚してしまっても、洗濯をすることができません。それを防ぐためですので、皆さん、よく覚えておいてください」

 その言葉は、現在の状況を補足したに過ぎない。だが、とんでもないことを言っているには違いがない。

 今の純枝は、耳まで真っ赤にしていた。だが、学級委員としての義務感からなのか、教卓の上にしっかりと立ち、教室中を見渡している。

 そのまま、三十秒ほどが経過した。教室中が静まりかえっていた。

 美香は、今度こそ本当に終わったのだと思った。だが、次の瞬間、そんな考えは、完膚なきまでに打ち砕かれることとなった。

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