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ボクの隣の小便器 ~堀江さんは、少し強気で、少し意地っ張りで、それでもやっぱりかわいいのです~

『校内において、男子生徒が尿意をもよおした際は、隣席の女子生徒を小便器とみなし、その口中へ放尿するものとする』

 もし、校則にこう書いてあったら、どう思いますか? 意味がわからないと思いませんか? いえ、日本語としての意味はわかりますが、それでもやっぱり、普通では考えられないことですよね。

 ボクの名前は、ほんたく。十二歳の中学一年生。この春、転校してきた――っていうのはちょっと違うか。普通に入学しただけですが、式直前に県外から越してきたボクにとっては、転校とまったく同じ感覚。なにしろ、知り合いもいなければ、この土地のことなんか、なにも知らなかったのですから。

 それでも、四月も下旬になる頃には、それなりに友だちもでき、学校を含めた普段の生活にもだいぶ慣れてきたと思います。

 日直の役目がまわってきたのは、そんなある金曜日のこと。隣の席のほりさんと一緒でしたが、特に何事もなく一日が過ぎ、放課後を迎えることができました。

 二人きりの静かな教室。目の前では、堀江さんが、学級日誌を書いていました。最初はボクが書くと言ったのですが、頭を悩ませるばかりでまったく先に進まない様子を見かねてか、「これじゃ、いつまでも帰れないじゃない! 私が書くから貸しなさいッ!」と言われ、取り上げられてしまったのです。

 その口調はキツいようにも感じました。知らない人が見たら、ボクに敵意があるように思えたかも知れません。でも、友だちなど一人もいない見知らぬ土地で、新しい学校生活を始めたボクに対して、隣の席になったよしみなのか、いろいろと気を遣ってくれているのはなんとなくわかっていました。だから、そんなことは絶対に……、きっと……、いえ、たぶん……、ないだろうと信じていました。

 真剣な面持ちで、書いては考え、考えては消し、消しては書きを繰り返す彼女は、ボクの存在などすっかり忘れているかのようでした。そんな堀江さんのことを、なにもすることのないボクは、じっと見つめてしまったのです。

 後ろで結わえられている黒くて長い髪は、窓から差し込む光を浴びて、輝いているかのようでした。切れ長な目をしていて、その顔はいわゆる美人、それもクールビューティというのがピッタリ。同じクラスの女の子なのに、雰囲気はものすごく大人に思えて、着ている制服――紺のダブルイートン上着と丸えりの白いブラウス――の子供っぽさが、とても不釣り合いなように感じました。そんな堀江さんの姿に、思わずドキッとしてしまい、気づかないうちに見とれてしまったのですが……。

「――なかった?」

 なにかを言われたことで、現実へと引き戻されたのです。

「な、なに?」

「日直として、なにか気になったことはなかった? って言ったのよ」

「ご、ゴメン」

「本間ったら……。また、そうやって、すぐ謝るんだから!」

「ゴメン……」

 それはいわゆる口癖でした。それも、悪い口癖。ボクは、身長も高くなく、顔つきもハンサムというわけではありません。勉強が得意なわけでも、スポーツが得意なわけでもないのです。そんな自信のなさのためか、ついつい言ってしまいがちでした。

 堀江さんは軽くため息をつき、続きを書き始めました。

 書くことのできなかったボクが言うのもなんですが、堀江さんはずいぶんと時間をかけて学級日誌を書いています。相変わらず、書いては消してを繰り返す彼女は、すごく真面目な性格なんだなと思いました。そして、もっと適当でもいいのに……、と。

 どれぐらいの時間がたったでしょうか。彼女の動かすシャーペンをなんとなく見ていましたが、やがて、ある感覚が芽生えてきたことに気づいたのです。身体のある部分に生じたそれは、最初はかすかな、やがてはっきりしたものへと成長していきました。かんたんに言えば、オシッコがしたくなったのです。

 頭の中に、例の校則――校内において、男子生徒が尿意をもよおした際は、隣席の女子生徒を小便器とみなし、その口中へ放尿するものとする――がはっきりと思い出されました。この決まりは、とても重要なものとされ、入学式当日にはかなり細かい説明がされていたのです。

 いまから数十年前まで、学校のトイレは、男女共用だったそうです。それは、大昔の昭和時代の中頃に造られたもので、和式便器の個室はあるものの、男子用に個別の小便器というものはなかったのだとか。では、どうしていたのかというと、個室に向き合った一面が、コンクリート製の壁下に排水溝が設けられた造りになっていて、そこに男子生徒が並んで同時にオシッコをすることができるというものだったそうです。トイレではなく「便所」と呼ばれていたその場所の画像を見せられましたが、いまの感覚からすれば、とても衛生的とは思えないほど、薄汚れた、みすぼらしいものでした。

 写真を見て、こんなところは使いたくないと思ったのですが、そんなことは、昭和時代の後期から平成時代の最初の頃にはすでに言われていたそうです。それでも、しばらくは、そのままの状態だったそうですが、地震に対する補強工事にあわせて、便所の改修もすることになったのが、ちょうど前の世紀が終わる頃とのこと。

 ですが、そこで発生したのが、それまで「男女共用」便所だった場所に、男子用と女子用のトイレを別々に作ることが、スペース的にできないという問題だったそうです。

 それではどう解決するのか? ひとつめは、数カ所ある男女共用便所を、均等に男子トイレと女子トイレに割り振るという意見。でもこれは、使えるトイレが半分になってしまうということで、特に女子から反対が多かったそうです。ふたつめは、別途トイレを増築するという案。これは、予算的にボツになったとのこと。

 着工が迫る中、意見はまとまることがなかったそうですが、当時の校長先生が、生徒の自主性をとても尊重する人だったとのことで、結論は、全校集会で決められることとなったのだとか。結果決まったのが、男女共用便所のある場所には、すべて女子トイレを設置するというもの。こうして、女子生徒は、温水洗浄便座のついた洋式トイレが設置された、現代的で衛生的なトイレを手に入れたのです。

 一方で、使えるトイレがなくなってしまった男子生徒はどうするのか。その対策が、男子生徒のオシッコは、女子生徒の体内へと「一時移動」し、女子生徒が自分のオシッコと一緒に女子トイレで出すという方法だったそうです。こうして、女子生徒は、自分たちだけがきれいなトイレを手にした代償を払うことになり、すべてが平等に、丸く収まったのだと説明されました。

 当然、ボクは言葉も出ませんでした。そんなことってあると思いますか? もちろん、一緒に入学したみんなからも、おどろきの声や文句が出るはずでした。ところが、「先輩たちが民主的に決めたことですから、みなさんもしっかりと守りましょうね」という先生の言葉に、「はい!」という元気な返事がされたことに、二度びっくりしてしまったのです。

 その後、補足として、オシッコ自体には菌はなくてきれいだけれど、容器などに一度出してしまうと、またたく間に雑菌が増えてしまうから、絶対に禁止であること。防止策として、女子生徒は男子生徒のおちんちんを口でくわえて、オシッコは直接受け入れることを強く指導されました。

 さらには、男子がどうしても大きい方がしたくなった場合には、先生に許可をもらって教職員用トイレを使うことはできるものの、基本的には、学校では大きい方は我慢するようにとも言われてしまったのです。

 あとで聞いた話ですが、入学前から、みんなは知っていたそうです。中学校に入ったら、男子は女子の口にオシッコをする、逆に言えば、女子は男子のオシッコを口に受け入れるということは、このあたりでは当たり前のように知られた話で、いまさらおどろくことではないと言われてしまいました。そして、その日のうちには、教室といわず廊下といわず、休み時間になると、あちらこちらでオシッコの一時移動がおこなわれることとなったのです。

 そんなことを思い出していたボクでしたが、一度生まれてしまった感覚は、強くなることはあっても、弱くなることはありません。通常であれば、すぐにでもトイレに駆け込むところですが、学校には、男子トイレはないのです。

 それでも、こんな場合に、ボクが使うための小便器は、ちゃんと用意されていました。そして、思わず、堀江さんの顔へと、ふたたび視線を向けてしまったのです。「隣席の女子生徒を小便器とみなし」という、校則の一部分を思い出しながら。

 さらには、それに続く「その口中へ放尿するものとする」という部分、そして、「女子生徒は男子生徒のおちんちんを口でくわえて、オシッコは直接受け入れること」という指導が思い返されると同時に、堀江さんの唇を見つめてしまったのです。

 そこは、ほんのりと薄桜色をしていました。リップや口紅をつけているわけではないはずですが、適度なみずみずしさを感じさせます。そんな唇を有した堀江さんの口こそが、まさに、ボクの小便器だったのです。

 でも、その日まで、そんな使い方をしたことはありませんでした。いくら校則で決まっていて、クラスや学校のみんなもそう使うのが当然と考えていたとしても、それでもやっぱり、同じクラスの女の子に対してそんなことは、ボクにはできませんでした。だからこそ、学校では、なんとかオシッコを我慢してきたのです。

 でも、そんな努力が報われたのも、それまでだったようです。たかまり続ける欲求に、校則の条文と指導の内容が頭の中をぐるぐるとまわっていました。そして、堀江さんの唇から視線を離すことができなくなってしまったのです。

「なにか、ついてる?」

「えっ?」

「私の顔に、なにかついてるの?」

「えっ? いや……、ご、ゴメ……」

 やはりそう言いかけて、言葉を切りました。ふたたび堀江さんにため息をつかれたくなかったからです。そして、次のように言い直したのです。

「な、なんで?」

「だって、ずっと私の顔を見つめているように感じたから……」

 静かにそう言った堀江さんでしたが、その言葉から、視線の行き先がすっかりバレているのだということがわかりました。

「そ、そんなこと、ないよ……」

「そう……」

 ささやくように言った堀江さんは、ふたたびシャーペンを動かし始めました。

 いつまで書き続けるつもりなんだろう……。ふと、そう思いました。そして、書いてもらっているにもかかわらず、こう聞いてしまったのです。

「ほ、堀江さん……? あの、まだ……、書き終わらないかな?」

 校則には「校内において」と書かれていました。つまりは、学校の外なら、トイレを使えるのです。今すぐに書き終えれば、それを急いで職員室に持っていき、そのまま下校して、公園の公衆トイレに駆け込める。そう考えたのです。

「どうして?」

 ですが、切迫した思いなど当然のように気づかない堀江さんは、ノートに視線を落としたまま、そう答えました。

「どうして、って……」

「なにか急いでるの?」

「そ、そうじゃないけど……」

「人に書いてもらっといて、そんな言い方はないんじゃない?」

「ゴメン……」

 間違いなく謝るべき状況だったからでしょう。堀江さんは注意をしたり、ため息をついたりすることはありませんでした。その代わりに、シャーペンを置くと、ボクの顔を見返してきたのです。

「言いたいことがあるなら、はっきりと……」

 そう言った堀江さんでしたが、そこで途切れてしまいました。ですが、すぐあとには、ものすごくおどろいたような声で、こう続けたのです。

「ちょっと、本間! アンタ、大丈夫なの? 真っ青じゃない!」

 自分でも気づいていませんでしたが、相当にひどい表情をしていたようです。なにしろ、なんとしてでも外に出ようとするオシッコとの戦いに、もはや敗北寸前だったのですから。

「もう、なに考えてんのよ! 具合が悪いなら、早く言いなさいよ!」

「ご、ゴメン……」

「謝ってる場合じゃないでしょ! どこが痛いの? 保健室、行く?」

「い、いや……、痛いっていうか……。それに、行きたいのは保健室じゃなくって……」

 そう言ったボクは、小刻みに震えていたと思います。そして、椅子に座ったまま、両脚をモジモジさせていたのですが、ついにはズボンの前の部分を両手で押さえてしまったのです。あふれ出ようとするオシッコをなんとか抑え込もうという意識が働いたのでしょうが、その行動自体に意味がないことは明らかでした。

 ですが、ボクの様子から、堀江さんはすべてに気づいたようです。

「ひょっとして、本間。オシッコがしたいの?」

 そんな問いに、答えることができませんでした。認めてしまえば、このあとの流れは決まったようなものだったからです。

「はっきり言いなさいよ! オシッコがしたいんでしょ?」

「う、うん……」

 かろうじて、絞り出すようにそう答えるのが、限界でした。

「あっきれた。アンタ、バカじゃないの? 目の前には、アンタの小便器がいるっていうのに、なんでそんなに我慢しちゃうわけ?」

 堀江さんは、たしかにそう言いました。それは、この学校の校則、そして「常識」から考えれば、当然の疑問だったのかも知れません。ですが、それこそが、一番恐れていたことでした。

 そして、黙り込んでしまったボク。しかし、堀江さんは、「ホント、しょうがないわね」とつぶやくと、少しいたわるような口調で続けたのです。

「ほら、立てる? 漏らしちゃわないように、ゆっくりでいいからね。今すぐ準備してあげるから」

 それがなにを意味しているのか……。男子が女子へと、オシッコの一時移動をしている場面は何回も見ていましたから、はっきりとわかっていました。

「で、でも……」

「でも……、なによ?」

「堀江さんにそんなこと……、できないよ……」

「どうして?」

 そこで一瞬、沈黙が訪れました。

 校則に書かれた「隣席の女子生徒を小便器とみなし」という部分は、厳しく守られていました。男子は隣席の女子しか小便器として使えませんし、女子もまた隣席の男子の小便器にしかなれなかったのです。つまり、ボクは堀江さんしか小便器として使えませんし、堀江さんもボクの小便器にしかなれないということです。

 そしてボクは、これまで、学校でオシッコをしたことはないのですから、堀江さんが一度も男子生徒のオシッコを受け入れていないことは明らかでした。

「だって……、堀江さんに、おちんちんなんかくわえてもらって、オシッコまでしちゃうなんて……。そんなこと、できるわけないじゃん!」

 ボクも必死でした。そんな目にあわせるぐらいなら、漏らしてしまった方がよっぽどましだとさえ思っていたのですから。

 ですが、ボクの言葉に、堀江さんはどこかびっくりしたような表情を見せました。

「本間……、アンタって……」

 そしてすぐに、軽くほほえんだように見えたのです。

「やさしいね……」

「や……、やさしいとかじゃなくって……、こんなこと、普通じゃ……。それに、美人な堀江さんが、ボクの小便器だなんて……」

 それは思わず出てしまった言葉でした。もちろん本心に違いはなかったのですが、冷静な状況ならば、けっして口にすることはなかったと思います。

 ですが、それを聞いた堀江さんは、さらにうれしそうな表情を見せたのです。

「……私、本間の隣の席で、ホントに良かった。アンタの小便器になれたんだから……」

「堀江さん……?」

「ほら、立って? 私はアンタの小便器なんだから、気にすることなんかないって言ってるでしょ。それに、もう、我慢できないんじゃない?」

 たしかに、言うとおりでした。そして、右手を取られたボクは、促されるままに立ち上がってしまったのです。

「裾を持ち上げて……」

 黒の詰め襟学生服の裾は、自分で持ち上げましたが、その後は、堀江さんのなすがまま。ベルトを外され、黒い学生ズボンをくるぶしまで下ろされてしまいました。そして、それまで穿いていた子供用ブリーフの代わりに、中学入学にあわせて買ってもらったボクサーブリーフまで下ろされてしまえば、ボクのおちんちんを隠すものはなにもなくなってしまったのです。

「アッ!」

 堀江さんが、つぶやくのが聞こえました。意味するところはわかりませんでしたが、間違いなくボクのおちんちんを見られているのだということはわかりました。

「本間って……」

 そんな声に続くはずだった言葉は、なんだったのでしょうか? 毛が生えてないのね――だったのか。それとも、おちんちん小さいのね――だったのかも知れませんし、けてないのね――だったのかも知れません。それはわかりませんが、ボクから聞くことなどできませんでした。

「……それじゃ、くわえるからね。びっくりして出しちゃわないように、あらかじめ言っておくから……。完全にくわえ込むまではダメよ!」

 そして次の瞬間には、小さな唇で、ボクのだらりと垂れ下がっているおちんちんをくわえ込んでしまったのです。

「アフンッ!」

 初めての感触に、思わず出てしまった言葉に、顔が熱くなりました。

「もふぅ、だひても、いいはぁふぉ(もう、だしても、いいわよ)……」

「で、でも、やっぱり……」

「やひゃひいのふぁうりぇしいきぇど、ふぁたしぎゃ、きょきょまでしてりゅのよ(やさしいのはうれしいけど、わたしが、ここまでしてるのよ)? だしゃにゃいなんて、ぎゃふにひつりぇいよ(ださないなんて、ぎゃくにしつれいよ)! ほりゃ、みょう、ぎゃまんれきないれしょ(ほら、もう、がまんできないでしょ)?」

 聞き取りづらかったですが、状況からして、言っていることはなんとなくわかりました。そしてついに、堀江さんの温もりをおちんちんに感じながら、オシッコを出してしまったのです!

「ングゥ……、ンッ!」

 その瞬間、堀江さんがうめき声を上げました。それと共に、愛らしい唇の両端から、液体が流れ出るのがわかりました。それがなんなのか……、考えるまでもありません。

 オシッコの出る量を、慌てて調整するボクがいました。あわせるかのように、堀江さんのうめき声は収まりました。それと共に、鼻息の激しさも少し収まって、喉の動きがゆっくりになったような気がしたのです。

 限界に達するほどたまっていたオシッコでしたが、出し切るまでにどれぐらいかかったでしょうか。ものすごく長かったようにも思えましたが、実際にはどうだったのでしょう? いずれにせよ、永遠に出続けるかのように感じたボクのオシッコも、やがて、出し尽くしてしまいました。

 ですが、まるで時が止まったかのように、ボクも、そして堀江さんも、動くことができずにいました。いまだに鼻で息をし、目を見開いたまま、固まったかのような彼女でしたが、それもしかたなかったと思います。ああは言ってくれたものの、生まれて初めて、おちんちんをくわえ込んで、オシッコを飲み干したのでしょうから。

 そんな彼女に、静かに声をかけました。

「堀江さん、終わったよ……」

 その言葉に、堀江さんはどこかハッとしたように思えました。そして、少し堅さを増してしまったおちんちんを、口から出したのです。

「ゴメン、堀江さん……」

 それは心からの謝罪でした。けっして、口癖で出た言葉ではありません。同級生の女の子の口にオシッコをしてしまったのですから、それは当然のことだとも思っていました。

 しかし、それに対する答えは、予想外のものでした。

「また、そうやって、すぐ謝るんだから!」

「で、でも……」

「私は本間の小便器なんだから、謝る必要なんか、どこにもないでしょ?」

「うん……、でも……、やっぱり、ゴメン……」

「もう、アンタってば……」

 そう言った堀江さんでしたが、その口調は、どこかやさしげに感じられるものでした。そして、イートン上着のポケットから取り出したレースのついた白いハンカチで、自分の口元をぬぐっていましたが、それは見る間に黄色く染まったのです。

 ほんのちょっとの間ですが、二人とも黙ったまま。通常であれば、堀江さんがボクサーブリーフと学生ズボンをふたたび穿かせてくれて、オシッコの一時移動は終わりとなるはずだったのですが……。

「本間のおちんちん……、なんだか、ピクピクしてる……」

 学生服の裾を持ち上げたままでしたが、堀江さんに見つめられているのだということが改めてわかりました。いまさらながらに恥ずかしく思えたのですが、それと同時に、これまでにない感情の高ぶりを感じて、自分自身をコントロールできなくなってしまったのです。

 見下ろしたボクの視線の先には、すっかりとち上がってしまったおちんちんがありました。そして、その前方数センチの位置には、堀江さんの美しい顔もあったのです。

「ねぇ、本間……」

「は、はふぃっ!」

 思わず、変な声を上げてしまいましたが、堀江さんは突っ込んだりしませんでした。

「本間のおちんちんって、ここまでしか剥けないの?」

 その言葉に、顔から火が出る思いでした。たしかに、ボクのおちんちんは、いつも皮に覆われたままでした。それでも、大きくなれば、五分の一ぐらいは剥けて、先端の割れ目をかすかに露出していたのですが、逆に言えば、そこまでだったのです。

 少しうつむき加減に、黙ったままのボク。ですが、それで堀江さんはすべてを察したようです。

「中学生にもなれば、完全に剥けてるって聞いたけど……。ねぇ、本間。剥いてもいいわよね? 皮被りのままだと、中に菌が繁殖して、アンタにも、そして小便器の私にも良くないって思うから……」

 そして堀江さんは、ボクのおちんちんをギュッと握りしめると、根元方向へと動かし始めたのです。

「やっ、ちょ……、い、いた……」

「我慢なさい! 男でしょ?」

「で、でも……。ぎゃっ! 痛っ――」

 最初、それは激しい抵抗を示していました。ですが、生まれてこのかた十二年以上も、敏感な部分を守ってくれた包皮は、堀江さんの手によって、見事に剥きあげられてしまったのです。

 あまりの痛さに、うっすらと涙を浮かべてしまったため、少しぼんやりとした視界になっていました。そんな中で、初めて見たそこは、きれいなピンク色をしていたのですが、表面は白い垢のようなものでびっしりと覆われていたのです。それは見るからに不潔そうに思えましたが、さらには、どこか生栗のような臭いと、アンモニアの臭いがまぜこぜになったような、なんともいえない悪臭までもが、あたりを漂い始めてしまったのです。

 堀江さんに、こんな汚いところを見られ、こんな強烈な臭いまでもかがれてしまい、いまさらながらに激しい恥ずかしさがこみあげてきました。

 しかし、堀江さんはそんな気持ちに気づかないのか、こう言ってきたのです。 

「ほら、言ったじゃない! この白いチンカ……こうが、菌の温床になるんですって。だから、きれいにしておかないと……」

 そして、ボクのおちんちんを、ふたたび薄桜色の唇で包み込むと、舌を使って舐めまわしてきたのです。

「ちょ、ちょっと、堀江さん……。き、きたな……。だって、菌があるって……」

「ひょうがないでふょ、さいふょは(しょうがないでしょ、さいしょは)。こりぇきゃらは、いちゅも、きりぇいにしてあげりゅから(これからは、いつも、きれいにしてあげるから)!」

 そう言って、丹念に、ゆっくりと、ボクの恥垢を舐めあげてくれたのです。堀江さんは、一見無表情なように見えましたが、実際には、なにかを我慢しているような……、例えば、苦みや臭みに耐えているような、そんな気持ちが見え隠れしたのは、気のせいだったのでしょうか。

「で、でも……。あッ、い、痛ッ! 痛いって、堀江さん……」

 いままで過保護に守られてきた部分を舐めまわされる痛さと、それにも勝る快感に、もう、おかしくなりそうでした。それは、これまで経験したことがないもので、なにかがこみあげてくるような、脚の付け根あたりがうずうずとするような、不思議な感覚に襲われていたのですが……。

 ガラッ――

 そんな音が、不意に聞こえました。そして、堀江さんのものではない、他の人の声が耳に届いたのです。

「ヤッホー、咲希ぃ。まだ、いる?」

 さらには、別の声がしました。

「日直の仕事、終わったんならさぁ、一緒に帰ろ?」

 その声は、聞いたことがありました。そして、思わずこう言ってしまったのです。

きくさん……、それと、うえむらさんも……」

 二人は、クラスの女の子でした。

「あっ、ゴメーン。ひょっとして、小便器ちゆうだった?」

 ボクと堀江さんのそばへとやって来た二人でしたが、そう言ったのは菊野さんでした。そしてすぐに、植村さんが続いたのです。

「ちょと、ちょっと、なぁに。ってことはさぁ、初めてってことだよね。本間くんの小便器するのって」

「あっ、そっか。そうだよね。そう言ってたもんね。やったじゃん、咲希。おめでとー」

 そう言って盛り上がる二人でしたが、言っている意味がまったくわかりません。ですが、やりとりを聞いて、堀江さんは、顔を真っ赤にしていました。

「ちょっ……、余計なこと、言わないでよ!」

 慌ててこう言っていましたが、二人は、どこかニヤニヤした笑いを浮かべながら、抗議を無視することに決めたようです。

「でもさぁ、本間くんも、罪な男だよねぇ……。咲希のこと、こんなに待たせてさぁ」

 そんな植村さんの言葉に、菊野さんが続けました。

「ホントだよ、まったく。ねぇ、本間くん、気づいてた? 咲希、悩んでたんだよ。本間くんが小便器として使ってくれないって。私、嫌われてるのかなぁ、って……」

「えっ?」

「だいたいさぁ、咲希が本間くんのことどう思ってるかなんて、もう、バレバレじゃん。そんなのにも気づかないなんて、ホント男の子って鈍いよねぇ」

「咲希ってさぁ、気が強そうに見えるけど、尽くすタイプだよ。これまでだって、いろいろと気を遣ってもらってたんじゃないの? それなのにさ、そんな咲希の気持ちも知らないで、今日の今日まで、小便器として使ってあげないなんて……。ホント、本間くんって、しょうがない……」

 いつの間にか、菊野さんと植村さんに責められる格好となっていましたが、二人の言葉は、堀江さんに遮られてしまったのです。

「うるさい、うるさい、うるさーい! もう、黙ってよ!」

「わかった、わかったって……。でもさぁ、あたしたちの言ったとおりだったじゃん。本間くんは、絶対に皮被ってるって……。まぁ、まだチン毛すら生えてないとは、思わなかったけどさ……」

 植村さんの言葉に、三人の視線が、そこに集中していることに、改めて気づかされました。すっかりと元の大きさに戻ってしまい、先端までがしっかりと包皮でつつまれた、皮余りのおちんちんにです。

「それなのにさぁ、咲希ったら、そんなことない、絶対に剥けてる、あんなかっこいい本間くんが皮被りだなんてあり得ないって、言い張っちゃってさ。まぁ、入学直前に女の子だけ集められた『小便器オリエンテーション』まで、おちんちんのことなんかなんにも知らなかったぐらい奥手な咲希だから、夢見るのはわかるけどさぁ……」

 続く菊野さんの言葉に、うつむくしかありませんでした。ですが、ボクのことを擁護してくれたのは、堀江さんだったのです。

「う、うっさいわねぇ。いまはきちんとわかってるわよ! それに、わ・た・し・が、ちゃんと剥いてあげたんだから! 本間は、もう皮被りなんかじゃないのッ!」

「おー、剥いてあげたんだ。そこまでしてあげるだなんて、さっすが、咲希。尽くしてるねぇー。まぁ、すぐに戻っちゃうみたいだけど……」

「でもさ、剥いてあげた、ってことは、ついさっきまでは剥けてなかったってことでしょ? それじゃ、ひどかったんじゃないの? チンカスがさぁ」

 植村さん、菊野さんときて、さらに植村さんが話を続けました。

「あぁ、チンカスねぇ……。あたしの隣の遠藤くんもさぁ、いつもは完璧に皮被りじゃん。それなのに、あたしが小便器になる時には、見栄なのかなんなのか、必ず剥くんだよ。それはいいんだけどさぁ、いっつもチンカスが残ってるんだよねぇ。あたしは小便器であって、お前のチンカス掃除機じゃない、だから自分できれいにしてこいって、文句言いながら拭いてあげるんだけどさぁ……」

「でも、優しいじゃん。隣の加藤は半剥けなんだけど……、私なんか自分で拭けって、ウェットティッシュ渡すもん。ねぇ、咲希はどうしたの? 今日まで剥いたことがなかったんなら、びっしりとついてたんじゃない? まぁ、ティッシュかなにかできれいにしてあげたんだとは思うけど……」

「たしかに、一面にこびりついていたわ。でも、もちろん、ティッシュなんか使わないわよ。だって、わ・た・し・が、全部きれいにしてあげたんだから」

「えっ、私がって……、舐め取ってあげたってこと?」

 植村さんの質問に、堀江さんは大きくうなずきました。

「うっわー、咲希、すっごーい。もう、これは愛よ、愛。好きじゃなきゃ、チンカスまできれいにするなんてできないもん」

「ホントだよ。愛されてるね、本間くん」

 そんな菊野さんと植村さんの言葉に、どう反応すればいいのか、わかりませんでした。こんなに美人の堀江さんが、ボクのことを好きだなんて、とても信じることができなかったからです。

 そんなボクのとまどいの中、一瞬訪れた沈黙。そして、突然思い出したかのように、二人はこう言ったのです。

「あッ。あたしたち、お邪魔だったね」

「あぁ、そうだよね。それじゃ、咲希。本間くんとごゆっくりー」

 それから、嵐のように去っていきました。

 ふたたび教室に残された、ボクと堀江さん。学生ズボンとボクサーブリーフを下ろしたまま、言葉を発することができずにいるボクに対して、堀江さんが言ってきたのです。

「ねぇ、本間」

「は、はい?」

「さっき二人が言ったことは、全部忘れなさい! いいわね?」

「はいッ!」

「それから、明日の十時。駅前の時計台の下で待ってるから!」

「えっ?」

「もう、ホントに鈍いんだから! デートよ、デート! この私がデートに誘ってあげてるのよ? 絶対に来なさいよ!」

「で……、デート?」

「そこで、私の口からちゃんと言うから。それまでは、二人の言ったことは全部忘れるのよ? いいわね?」

「う、うん……」

「絶対に『ゴメン』なんて言わせない。ううん、もし『ゴメン』て言われても、落とすまであきらめないんだから……」

「え、それって……」

「明日はお弁当を作っていくから。あと、飲み物もいっぱい持っていくし……」

「飲み物もいっぱい……?」

 その言葉に、鈍いボクでも、堀江さんの考えていることがわかったような気がしました。大量に飲めばどうなるか、それは明らかだったのですから。

「日記は、これでもういいわ。ほら、職員室に寄って、帰るわよ」

 不意にそう言った堀江さんは、指定の通学バッグを背負って、白い自転車用のヘルメットを被ると、先に出て行ってしまいました。慌てていたためなのでしょうか、それとも気が動転していたためなのでしょうか。とにかく、ボクのボクサーブリーフと学生ズボンを穿かせてくれることは忘れてしまったようで、教室には、下半身を丸出しにしたままという間抜けな格好をしたボクが取り残されることとなったのです……。

 翌日のこと。学校外にもかかわらず、海の見える公園で、堀江さんがボクの小便器になってくれるという、忘れがたいデートを楽しみました。そして、最後におこなわれた告白に対して、「ゴメン」と言うことは、もちろんなかったのです。

 さらには、「これからは、アンタのこと、拓人って呼ぶから、私のことも咲希って呼びなさいよ!」と、口調はいつもと同じながらも、どこか照れたような表情をした彼女の頼みを、断れるはずもありませんでした。

 そんな、変化した呼び名のせいだったのでしょうか。ボクたちの関係が大きく変わったことに、クラスメイトたちはすぐに気づいたようで、ある種の公認カップルのような扱いになってしまったのです。かかあ天下とか、世話焼き女房とか、尻に敷かれているとか、いろいろからかわれたりもしますが、席替えがあっても、いつも隣同士にしてくれるなんて、本当にボクのクラスはいい人たちばかりです。

 今日もまた、隣の席では、咲希ちゃんが笑顔を見せてくれています。そんな彼女は、少し強気で、少し意地っ張りな、それでもやっぱりかわいい、ボクの大好きな恋人であり、とっても大切な小便器なのです。

(了)

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