じゃれてでもいるかのように、無邪気な様子でその裸体を押しつけながら、はやくはやくとせがんでくる少女の動きに邪魔はされました。ですが、それでも全身を洗う老人よりも先に、髪を洗い終わってしまったのは、ある意味当然のことだったと思います。
「ねぇねぇ、お爺ちゃま。先に、和人お兄ちゃんとお外のお風呂に行ってもいい?」
相変わらず、少しはにかんだような話し方でしたが、これはこの少女の癖というか、性格からくるものなのだということは、その時の私には既にわかっていました。実際には、少しはしゃいでおり、楽しみで仕方がないのだということは、その表情から明らかだったのです。そして、そんな彼女は、返事を聞くよりも先に、既に私の腕を軽く引っ張ってもいました。
「ああ、もちろんいいとも」
孫娘のお願いに、柔和な顔つきでそう答えた老人は、私の方へ視線を向けると、こう告げてきました。
「和人くんや。相変わらず手間をかけさせて済まんが、瑠美と一緒に、先に入っていてくれんか? もうすぐ六年生になるとはいえ、まだまだ子供じゃて、一人では危ないからのぉ……」
「は、はい……」
そう答えた私でしたが、その時には既に、少女に腕を引かれるがままに立ち上がっていました。そしてそのまま、外へと続くサッシの方へと引っ張られていたのです。
文字通り一糸も纏わない全裸姿の少女に、タオルで前を覆い隠した私が付き従っていました。先ほどまでのように巻き付けて縛ることまではしませんでしたが、それでも、再び元気を取り戻してしまった私のモノをさらけ出したまま歩く勇気はなかったのです。もちろん、この期に及んでという気もしないでもありませんでしたが……。
「うわぁ、すっごーい……」
外へと出た途端、少女はそう感嘆の声を上げました。そして、私の手を離し、駆け出していったのです。
「ねぇねぇ、和人お兄ちゃん。はやく、はやくぅ……」
露天風呂の奥まで走って行った彼女は、小さな岩の上に登ると、私の方へと向き返りました。そして、右手を大きく挙げると、おいでおいでというしぐさをとったのです。そのため、微笑みをたたえた顔はもちろんのこと、膨らみを帯びた胸とその頂にある小さな突起、小さくくぼんだお臍、そしてシュッと一筋刻まれた割れ目などが余すことなく見て取れたのです。
そんな彼女の裸身は、春の夕日に照らされていました。そんな、オレンジ色の光のせいで、その様はどこか幻想的に感じたのを覚えています。決して言い訳をするわけではないのですが、卑猥な感じを抱く以上に、まるで芸術作品でも見ているかのように思えたのです。そして私は、我を忘れて、彼女のことを見つめてしまったのだと思います。
ですが、自分のことを見つめたまま、いつまでも動かない私のことに、少女はどこかキョトンとした表情を見せていました。
「……和人お兄ちゃん、どうしたんですか?」
そんな彼女の問いに、私はふと我に返ったのでしょう。慌ててこう答えたのです。
「な、なんでもないよ、瑠美ちゃん……」
そして、歩みを進めながら、こう続けました。
「そんなところに登っちゃ、危ないよ。ただですら、滑りやすいんだから……」
それは、もちろん本心に違いありませんでした。それとともに、自分は子供のお風呂の面倒を見てあげているだけなのだという、やはり言い訳じみた思いがにじみ出たものだったのかもしれません。少女に自らの精液をぶっかけた上に、今でもタオルをはしたなく盛り上げているにもかかわらず、その大義名分にすがろうとしていたのでしょうか。
「平気ですよぉ。瑠美、こう見えても、運動は得意なんですぅ。だから、落ちたりしませんからぁ」
やはり、どこか甘えたような、それでいてはにかんだような口調でそう言った彼女は、相も変わらず手を大きく上下に動かしながら、私のことを招いていました。
「そうかもしれないけど、でも……」
そう言いながら、私は少女の元へと歩みを進めていきました。
「もう、和人お兄ちゃんたらぁ。心配性なんだからぁ……」
傍らへとやって来た私に対して、彼女はそう言いましたが、その口調や言葉遣いから、今やすっかりと打ち解けてくれていることがはっきりとわかりました。
「そんなことよりも、ほら、見てください。すっごい、きれいですよ」
そう言って、再び外側に向き直った少女は、両手を大きくひろげました。それは、光景の雄大さに、思わず出た行動だったのかもしれません。
ですが、その風景を一目見た瞬間、私にもその気持ちはわかったように思えました。
目の前には、山々が連なっていました。そして、その露天風呂自体は、崖っぷちに設けられているのだということもわかりました。見下ろすと、水が流れているのが見えましたから、峡谷の上ということになるのでしょう。
まさに、雄大な光景が、なにものにも遮られることなく見て取れました……が、それは逆に言えば、外からもこの露天風呂が丸見えだということを意味していました。ですが、実際問題としては、木々を分け入って対岸の山に登らないかぎりは見ることはできなかったでしょうから、問題はなかったのかもしれません。
「ねぇねぇ、和人お兄ちゃん。お外で裸んぼになるのって、なんだか気持ちいいね」
そう言った彼女は、岩の上でくるくると回転を始めました。
「あ、あぁ、そうだね……」
そう生返事をした私でしたが、私は彼女の裸身から目を離すことができなくなっていました。全体的には華奢な、まだまだ子供のものとしか思えない体の中で、胸だけが度を超えた主張を見せていましたが、そんなアンバランスな様が、私により一層の性的興奮を与えているようでした。
「くしゅん……」
小さなくしゃみが、再び私を現実へと引き戻しました。実際に鼻水が出ていたわけではありませんが、少女はその小ぶりな鼻を擦るしぐさをしました。
三月も下旬を迎え、日に日に春めいては来ていましたが、もちろん全裸でいつまでも過ごせるほど暖かいわけではありません。ましてや、日も傾きかけた夕方ですから、なおのことだったでしょう。
「る、瑠美ちゃん……。大丈夫?」
「はい、和人お兄ちゃん。でも、やっぱりまだ、ちょっと寒いですね」
そう言いながら少し恥ずかしそうに笑った少女を見つめながら、私は尋ねました。
「風邪ひいちゃったら大変だから……、お風呂、入っちゃおうか?」
少女はその言葉に、嬉しそうに頷きました。
湯船自体は、立っている場所の傍らにありました。全面が岩で覆われているそれは、かなりの広さがありました。どこか質素に感じられた内風呂と比べ、その造りから、こちらの方がメインというか、宿としては売りなのだろうということが見て取れました。
不意に、バシャンという音とともに、水しぶきが上がりました。想定外の出来事に、虚を突かれた私でしたが、それは、少女が岩の上から風呂に飛び込んだためだということがわかりました。
「瑠美ちゃん、そんなことしたら、危ないよ。ほんとに、怪我しちゃったらどうするんだよ……」
彼女が登っていた岩は、たいして高くはありませんでした。風呂の深さも、たいしたことはありません。ですから、飛び込んだ高さ自体にさして問題はなかったのですが、それでも滑りやすい風呂でそんなことをするのは、想定外でした。とはいえ、その身体的成長は置いておくとして、まだ十歳の女の子ですから、十分にあり得ることだったのですが……。
「えへっ。ごめんなさい、和人お兄ちゃん」
そう答えた彼女でしたが、その口ぶりから、真剣に捉えていないことは明らかでした。馬鹿にされていたり、舐められていたりするわけではないのでしょうが、それでも先ほど祖父に怒られた時とはまったく異なる反応だったのです。もっとも、年齢も近い「お兄ちゃん」に怒られたとしても、そのような反応になるのは彼女だけではなかったかもしれませんが……。
「ねぇねぇ、プールみたいに広いよ。誰もいないから、泳いでもいいよね?」
そう尋ねておきながら、私の返答を待つでもなく、彼女は露天風呂で泳ぎ始めました。先ほどの言葉どおり、少女は運動が得意なのでしょう。きれいな平泳ぎです。
「もう、瑠美ちゃんったら。お爺さんに怒られても、知らないよ……?」
水面に浮かぶ双子の山を視線に捉えたまま、そう答える私でしたが、さすがにいつまでもそうしているわけにもいきません。それは不自然ですし、なにより、夕方の冷たい空気に堪えられなくなっていたのです。
それでも、一瞬躊躇はしました。ですが、私はタオルを傍らの岩に置くと、素早く湯の中へと入りました。なるべく、自分の逸物を、直接見られないようにしたかったためです。そして、泳ぎ回っている彼女を避けるようにして、湯船の一番奥まで進んでいくと、大きな岩を背にして腰を下ろしました。特に意識をしたわけではありませんが、それは両脚を大きく開いた、いわゆる体育座りの格好だったのです。
ふうっ、とため息をついた私は、軽く空を見上げていました。この数十分の間に、想像を超えるようないろいろな出来事がありましたが、ようやくのことで一息ついたような、そんな思いがしたためです。もっとも、それが温泉による効能だったのかどうかまでは、はっきりとしなかったのですが。
そんな、どこかまったりとしている私の脇へと、少女が泳いできました。そしてそのまま、私と同じような格好で湯船に腰を下ろしてしまったのです。
「どうしたの、瑠美ちゃん。疲れちゃった?」
そんな私の問いに、少女は答えませんでした。その代わりに、あることをお願いしてきたのですが、それは、私が想像もしていなかったことだったのです。
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