「そ、それじゃあ、瑠美ちゃん……。きれいに、しようか……」
その言葉を待っていたかのように、彼女はプラスチックの風呂椅子へと腰掛けました。
私の目の前には、全裸の少女が、こちらに背を向けて座っていました。まず目に飛び込んできたのは、天使の輪をたたえた、黒くてつややかなおかっぱ髪でした。そして、その下方向には、首筋から肩、背中、そして腕が見てとれました。それらはまだ、全体的に細っこい感じがしました。
「最初は、髪からじゃな」
やはり、私は落ち着きを失っていたのでしょう。判断能力が鈍っていたようでした。老人のその言葉を受けて、シャワーをかけるでもなく、いきなり備え付けのシャンプーボトルを取り上げてしまったのです。
その様子を見かねたのか、老人はこう言いました。
「慌てるでない。湯をかけてからじゃ……」
それは、やはり馬鹿にした口調ではありませんでした。それどころか、未熟な若者を気遣ったような、そんな人を落ち着かせる口調だったのです。
そのおかげもあってか、私は少し冷静さを取り戻したようです。シャワーヘッドをつかむと、湯を出しました。
「瑠美や。お目々をギュっ……、じゃ」
その言葉に、少女が目を固くつぶったことが、背後からでもわかりました。そのことを確認してから、私はその髪に、シャワーをかけ始めました。そして、濡らした髪にリンス入りのシャンプーを付け、髪と頭皮全体を洗うと、再びシャワーで流し落としていったのです。
実際に洗い始めたことで、私はますます落ち着きを取り戻していったのでしょう。そして、当然とも言える結論に達していました。男だろうが女だろうが、自分の体だろうが他人の体だろうが、洗い方そのものには大きな違いなどないということです。
「次は背中じゃな」
首筋から肩、そして背中にかけても、別に難しいことなどありませんでした。
彼女の手渡してくれたスポンジは、片面にテレビアニメのキャラクターが描かれており、反対面がただのスポンジになっている、そんなものでした。丸いかたちのそれが二つありましたが、その両方にボディーソープを付け泡立てると、私は少女の後ろにしゃがみ込みました。
まずは首筋から肩、そして背中から腰へと洗っていったのですが、あらためて間近で見た彼女の体は、やはり華奢な造りをしていることがよくわかりました。
「瑠美ちゃん、腕上げて」
「はい、和人お兄ちゃん……」
そう言って上げてくれた腕にも、余計な肉付きなどありません。そんな細い腕を、私は丁寧に洗っていきました。
風呂椅子に腰掛けているため、見える部分だけにはなりましたが、まだ小ぶりなお尻も、スポンジでこすりあげてしまうと、見える範囲では、洗っていないところがなくなっていました。であるならば、次はどうするか……。
少し思案をした後、スポンジを持った両手を、そのまま少女の前側へと移動させました。私自身は、彼女の背中側にしゃがみ込んだままです。洗い場にある鏡はすっかり曇ってしまっており、まったくの手探りになりますが、逆にそれが幸いして、彼女の胸を見ずに洗うことができると考えたからです。
「和人くんや」
ですが、黙って見ていた老人が、不意に話しかけてきました。
「は、はい……」
「それでは洗いにくかろう。それにしっかりと洗えんじゃろうし……」
そして一拍おくと、今度は孫娘へと語りかけました。
「ほれ、瑠美。和人くんの方を向きんしゃい。前も、よく洗ってもらうんじゃ」
「はぁい、お爺ちゃまぁ」
相も変わらず、少しはにかんだような、それでいて甘えたような口調でそう言った彼女は、風呂椅子の上で少し腰を浮かせると、私の方へと向き直り、あらためて腰を下ろしました。
私はもはや、少女と向き合っていました。であるならば、当然のように、少女の胸が見てとれました。そして、とうとうまじまじと見ることとなったそれに、私は息を飲んでいました。と同時に、子供の体を洗ってあげるだけなどという大義名分は、どこかへ吹き飛んでしまったようにも思えました。
わかってはいたことでしたが、その胸は、もはや子供のものではありませんでした。まるで小さなお椀をひっくり返したかのような、それぐらいの大きさはあったのです。そして、その頂にある桜色の突起も、既に小豆ほどの大きさがありました。
私は、我を忘れて、その様を見つめていたのだと思います。思春期を迎えて以降、初めて生で見る女性の胸を目に焼き付けようと、無意識のうちにそうしていたのかもしれません。
「和人お兄ちゃん……?」
どこか不思議そうな口調でしたが、私が洗い始めないことに疑問を抱いたためなのでしょう。少女が突然、話しかけてきました。
「どうしたのじゃ、和人くん。洗い方がわからんかね?」
老人も、そう問いかけてきました。その口調は、私のイヤらしい気持ちなどまったく気づいていないような、そんなものでした。
「い、いえ……。だ、大丈夫です……」
慌ててそう答えた私は、スポンジを少女へとあてがいました。そして、まずは首回りを、次にお腹を洗っていったのです。
それでもなお、自分の淫らな気持ちが、やはり二人に見透かされたのではないかという疑念が、どうしても拭い去れなかったのですが、それを打ち消すかのごとく、心の中では、例の言い訳、大義名分を唱え続けていました。
彼女のおへそ周りには、パンツのゴム跡がしっかりと残っていました。そんな何でもないようなことに、なぜか不思議な興奮を感じながら、丁寧に、時間をかけてスポンジを動かしていきました。
やがて、下腹部がすっかりと泡に覆われてしまいましたが、それより下へとスポンジを進めることはできませんでした。脚をきっちりと綴じ合わせて座っていたため、少女の秘する部分を見ることはできず、また洗うこともできなかったためです。
であるのならば仕方ない……。それは半分言い訳に過ぎなかったのですが、遂にといった感じで、残された部分、つまり少女の胸へとスポンジをあてがっていったのです。
それは、私が想像していたよりも硬さがありました。女の子のおっぱいというのはもっと柔らかいものだと思っていた当時の私は、そのことに意外さを感じたのを覚えています。
当時の私にとって、女の子のその部分は、完全にファンタジーの世界のものでした。ちょっとエッチな少年マンガなどでは、おっぱいの感触を表す擬音として「ふにっ」「ぷにょ」など、柔らかさを強調した語が使われたりしますが、そういう間接的な知識しかなかったのですから、そう思ったのも仕方なかったのかもしれません。
実際には、胸の発育が始まった初期段階、まだ成長途上のそれは硬さを帯びており、大人のような柔らかさはないのだそうですが、それは大人になった今の知識から言えることであって、十六歳の私はそんなことなど知るよしもなかったのです。
再び、唾を飲み込む自分がいました。そして、無意識のうちに、スポンジを動かし始めていました。その動きは、胸の頂にある可憐な突起を中心として、まるで弧を描くようなものでした。誰に教わったわけでもないのに、まるで揉みあげるような、そんな動きになっていたのです。
「ふうん……、んんっ!」
不意に、少女が言葉を発しました。どこか鼻にかかったような、奇妙に艶めかしさを感じさせるその声に、私は思わず、彼女の胸からスポンジを離していました。
「ご、ごめん、瑠美ちゃん……」
「だ、大丈夫です。ちょっと、くすぐったかっただけ……」
それでも戸惑いを見せていた私に、老人が穏やかに話しかけてきました。
「和人くんや。そこは女の子の大事な部分じゃからのぉ、しっかりと洗ってやってくれんか」
その言葉が、再び私の背中を押しました。それでも、どこかで後ろめたい気持ちがあったのでしょう。少女の顔を見ながら、あらためて問い直しました。
「る、瑠美ちゃん。続けて、大丈夫?」
「お願いします、和人お兄ちゃん……」
相変わらず、はにかんだ様子を見せながらも、彼女はそうはっきりと答えました。
再び、少女の胸へとスポンジをあてがった私は、従前と同じ動きで洗いあげていきました。それは、今の知識からすれば、洗うというよりは、愛撫するという方がしっくりとくる動きだったと思います。スポンジを、弧を描くようにして動かすその様は、少女の胸を揉みしだいているのに他ならなかったでしょう。
ですが、そんな動きを見ても、老人はなにも言ってきませんでした。
そしてまた、少女もなにも言ってこなかったのです。それは、知識のなさが成したことなのかもしれません。それでも、くすぐったさを堪えているような、そんな感じは受けたのですが、それが本当に、くすぐったさ「だけ」を堪えていたのか、それとも性的な別のなにかをも堪えていたのか、それは本人のみ知るところだったでしょう。
どれぐらいの間、そうしていたのでしょうか。本来であれば、たかが胸を洗うことなど、ほんの数秒もあれば終わってしまうことだったでしょう。ですが、ずいぶんと長いこと洗っていた……、いや、はっきりと言えば、揉みしだいていたように思います。
「さすがに、もういいじゃろう。のぉ、和人くん」
不意に声を発した老人は、そこで一呼吸おくと、続けてこう言ったのです。
「男にはない感触じゃからのぉ、夢中になるのもわからんでもないが……。でも、瑠美もずいぶんとくすぐったそうじゃから、これぐらいで我慢してくれんか……」
その言葉に、慌てて、手の動きを止めました。老人の存在など忘れ去り、スポンジ越しとはいえ、少女の胸の感触にすっかりと夢中になっていた私は、顔から火が出るような思いでした。そして今度こそ、淫らな気持ちをすっかりと見抜かれており、さらには、叱責を受けるのではないかと思ったのです。なにしろ、行動という、歴然とした証拠があったのですから。
ですが、老人はそれ以上、このことには触れませんでした。言葉の内容からすれば、私が少女の体を、ただ単純に洗っていただけではないということは、すっかり見抜いていたはずなのにです。その代わりに、少女に向かってこう言ったのです。
「瑠美や、次は下じゃな。ほれ、いつもみたいに、立ちんしゃい」
「は、はい……、お爺ちゃま……」
そう答えた彼女は、どことなく顔を上気させたような、そんな感じを見せていました。ですが、それは浴場の熱気のためだったのか、それとも別の理由のためだったのか、はっきりとはしませんでした。
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