第二話 常識に従って「三人には服を脱いでもらいましょう」

「さっそく、三人には服を脱いでもらいましょう」

 悠人の明るい声が教室に響いた瞬間、男子たちの間から熱狂的な歓声が爆発した。机を叩く音や口笛が飛び交い、興奮した視線が一斉に教室の前方へと集中する。

 黒板の前に並んで立つ梨枝、みるく、琴莉の三人は、まるで凍りついたようにその場に立ち尽くしていた。

 しかし、三人の表情と佇まいは、それぞれまったく異なっていた。

 梨枝はくやしさに下唇を強く噛みしめ、眉をきつく寄せている。怒りで肩を震わせながら、鋭い視線を悠人へ向けるその瞳には、反発の色が濃く宿っていた。

 みるくは頰を真っ赤に染め、恥ずかしさから逃げるように視線を床へ落としていた。唇をぎゅっと結んだまま、その瞳はどこか焦点が定まらず、長いまつ毛がかすかに揺れていた。

 琴莉は幼い子どものように大きな目を見開き、これからなにが起こるのかも理解できないまま、全身をこわばらせていた。細い肩は恐怖に小刻みに揺れ、唇はかすかに震えている。目にはうっすらと涙が浮かび、その場に立っているだけで精いっぱいという様子だった。

 だが、悠人が塗り替えてしまった「常識」の前では、誰一人として逆らえない。

 最初に動いたのは梨枝だった。

(なんて言うか、やっぱり梨枝の服って、地味なんだよなぁ……)

 悠人は、幼なじみの姿を眺めながら、心の中でつぶやいた。

 くすんだベージュの無地長袖カットソーに、ゆったりとしたインディゴブルーのストレートジーンズ。決して変な服ではないが、小学校高学年女子としてはあまりにおしゃれっ気がなく、流行を意識している様子もない。

(そんな服ばっかり着てるから、おばさんっぽく見えちゃうんだって……)

 梨枝は悠人の視線に気づいたのか、鋭く睨み返してきた。

 そしてカットソーの裾に両手をかけると、指先がわずかに震えながらも一気にまくり上げた。そして、両腕を勢いよく引き抜き、頭を荒々しく通す。布が静電気でパチパチと音を立てるほど乱暴に脱ぎ捨て、床に叩きつけるように投げた。

 続いてジーンズのホックをはずし、ファスナーを勢いよく引き下ろす。腰をくねらせながら太ももを押し下げ、膝、ふくらはぎと一気に脱ぎ下ろした。足首から両足を抜き取ると、それもカットソーの上に乱暴に重ねて投げ捨てる。床に散らばった服は、まるで梨枝の苛立ちをそのまま映し出しているようだった。

 悠人は、その様子がおかしくてたまらない。

 普段の梨枝なら、服をこんなふうに扱うことは絶対にない。だからこそ、その荒々しい動きの一つひとつから、「常識」に従わざるを得ないとわかっていながらも、抑えきれない反抗心が痛いほど伝わってきた。

 だが、下着まで脱ぐ覚悟はなかなかつかなかったようだ。そして、少しでも時間を稼ごうとしたのだろう。グレーのハイソックスに手を伸ばした、そのとき……。

「ああ、靴下と上履きはそのままでいいよ。素足で歩いて、ケガでもしたら大変だからね」

 悠人は、本気で気遣うようなやさしい口調でそう言った。そして教室のみんなを振り返る。

「それでいいよね、みんな?」

 男子たちは口々に賛成の声を上げた。

「悠人、やっさしーい!」

「それなら女子も安心だよな」

 もちろん、反対する者など一人もいなかった。

「ほらほら、梨枝。板書、板書」

 悠人に促されて、下着と靴下、上履きだけを身に着けた梨枝は、両腕で胸と下腹部を必死に隠しながら、ふたたび黒板へと向かった。背中を小さく丸め、肩を震わせ、足取りは重くぎこちない。羞恥に頰を真っ赤に染めながら、先ほど自分で書いた屈辱的な文章の隣に、きれいな文字で次のように付け足した。

『足にけがをしないように、うわばきとくつしたははいてもいい』

 梨枝がチョークを置くころには、みるくもおずおずと服を脱ぎ始めていた。

 みるくの服装は、クラスの他の女子とはまるでちがった。

 白を基調にしたやわらかなワンピース。胸元や袖口、裾には繊細なレースとふんわりとしたフリルがたっぷりとあしらわれ、薄手の生地が彼女の身体をやさしく包み込んでいる。控えめな色合いなのに、お人形のように愛らしく、教室の中で少し浮いた存在感を放っていた。おとぎ話の世界から迷い込んだような、夢見る少女の装いだ。

(ロリィタファッション……っていうのかな)

 悠人はそう思ったが、本格的なロリィタ服というほど派手ではなく、スカートの広がりも控えめで、小学校生活に溶け込める程度に抑えられている。それでも、こんな服を普段着にしている女子は、みるく以外には見たことがなかった。

 みるくはまだ恥ずかしそうに頰を染め、視線を床に落としたまま、細い指をワンピースの背中に伸ばした。指先が小刻みに震えながらも、ファスナーをゆっくりと引き下ろす。金属音が静かな教室に小さく響いた。

 肩からそっと布を滑らせるように落とし、両腕を抜き取る。足元まで落ちたやわらかな生地を、まるで大切なものを扱うように軽く持ち上げ、片脚ずつていねいに抜いた。フリルが床に触れるのを嫌うかのように、わずかに腰を引く仕草が愛らしい。

 続いて、中に着ていた白いブラウスの小さなボタンを、一つひとつていねいにはずしていく。震える指で何度もボタンに触れ直し、最後の一つをはずし終えると、肩から静かに脱ぎ落とした。襟元と袖口を無意識に整えながら両袖を抜く動作は、どこか名残惜しげだった。

 その後、愛着を込めてワンピースのシワをていねいに伸ばし、ブラウスと重ねてから、床へそっと置く。その扱い方一つで、みるくがこの服をどれだけ大切に思い、日常的に大切にしているかが痛いほど伝わってきた。服を失うことへの寂しさと、教室の視線にさらされる羞恥が、彼女のすがるような表情に混じり合っていた。

 みるくのすぐ隣では、ほぼ同時に琴莉も脱ぎ始めていた。

 その服は、どこか「もっと小さな子ども向け」の印象が強かった。ジュニア向けというより、明らかにキッズ向けのデザインだ。

 上に着ているのは、淡いピンク色のチュニック。大きな丸襟があしらわれ、左右にはチェック柄のかわいらしいポケットがついている。胸には仲良く遊ぶウサギとクマのアップリケが並び、裾には控えめなフリルが揺れていた。全体的にふんわりとしたシルエットで、幼稚園や小学校低学年の女の子が着るような子ども服を、少しだけ大きくしたような愛らしいデザインだった。

 下に履いているのは、一見ジーンズ風ながら、本物のデニムではなくやわらかな生地で仕立てられた七分丈のパンツ。折り返した裾からは動物柄の裏地がちらりとのぞき、後ろのポケットには大きなウサギのアップリケが縫いつけられている。活発に遊び回る小さな子どもによく似合いそうな、愛嬌あふれる一本だ。

 琴莉は、チュニックの裾に小さな手をかけると、恐怖に指を震わせながらゆっくりとまくり上げた。だが、途中で何度も動きを止めてしまう。ようやくの思いで両腕を引き抜き、頭を通すと、服をたたむことなど考えもせず、床にぽんと落とした。

 続いてパンツのウエストに手をかけた。ゴム仕様になっており、そのままするりと足首まで引き下ろし、片脚ずつ抜いてしまう。脱いだパンツも、チュニックの上へ無造作に重ねた。

 その仕草は、どこか幼くて子どもっぽかった。雑というより、服をきちんとたたむという習慣自体が、まだ十分に身についていないように見えた。

 悠人をはじめとする男子たち、そして残りの女子たちが見守る中、梨枝、みるく、琴莉の三人は、下着姿のまま棒立ちになっていた。

「ほら、まだ四組も残ってるんだからさ。それに、こんなに時間をかけちゃダメだよ。毎朝、学校に来たら、朝の会までに脱がなきゃいけないんだから。今のうちに手早くできるよう慣れておかないと」

 悠人が優等生らしいやさしい口調でそう言うと、男子たちからクスクスと笑いがもれた。

 一方、まだ服を着ている残りの女子たちは、あいかわらず黙ったままうつむいていた。しかし、その肩はこわばり、手を無意識に握りしめ、指先が白くなるほど力を込めている。不安でたまらないのだろう。教室の前に並ぶ半裸の三人へ、何度もチラチラと怯えた視線を向け、すぐにそらしてはまた見てしまう。誰かの小さな吐息や、椅子の軋む音が、教室の重苦しい空気をさらに濃くしていた。

(まぁ、無理もないよね。このあと、自分たちも同じ目に遭うんだから)

 そんな女子たちを見つめ返したあと、悠人は梨枝へと目を向けた。

 それに応えるように、今回も最初に動いたのは梨枝だった。あいかわらず、くやしさと恥ずかしさが入り交じったような表情を浮かべ、眉をきつく寄せ、唇を強く結んでいる。

(……にしても、やっぱり梨枝らしい下着だよな)

 悠人はそう思った。

 上に着けていたのは、グレーのハーフトップ。肩の部分はタンクトップのような幅広な形で、一周するアンダー部分は黒い帯になっている。シンプルなデザインなのに、その帯には「I’m a pretty girl♡」という白い文字が、かわいらしい書体でプリントされていた。

(……梨枝も、少しはおしゃれを気にしてるのかな。まぁ、たまたまそういうデザインだっただけかもしれないけど)

 悠人はそんなことを思った。

 男子たちの間から、「マジで脱ぐのか……」「梨枝、意外とかわいい下着じゃん」といった小さな声がもれる。

 そのたびに、梨枝の耳はますます真っ赤に染まり、首筋まで羞恥の色が広がっていく。唇を強く噛みしめ、眉を寄せたくやしげな表情が痛々しい。

 それでも、手は止まらない。

 さほど大きくはないものの、それでもふくらみ始めた胸を包んでいたハーフトップを、梨枝は手早く引き上げて脱ぎ捨てた。布がはだける瞬間、彼女は無意識に肩をすくめ、慌てて胸を片腕で隠そうとする。脱いだそれを、床に積み重なった服の上へ乱暴に叩きつけた。

 続いて、ショーツにも手をかける。こちらもハーフトップとおそろいで、ウエストには同じ黒い帯と文字が入っている。少女らしい最低限のかわいさはあるものの、実用性を優先したシンプルなガールズショーツだ。

 梨枝は一瞬ためらったあと、思い切ったようにショーツを一気に膝まで引き下ろした。細い脚を震わせながら足首まで滑らせ、片脚ずつ抜き取って服の山に加える。

 その瞬間、あらわになった素肌が教室の空気にさらされ、梨枝はとうとう耐えきれなくなったのだろう。

 その場にしゃがみ込み、両腕で胸と下腹部を必死に抱き寄せるように身体を縮めた。耳まで真っ赤になった顔を深く伏せ、肩が小刻みに震え、背中を丸めて小さくなっている。くやしさと羞恥が全身からあふれ、息を殺すように唇を噛みしめていた。

(そりゃあ、恥ずかしいよね。みんなの前なんだから。そんなの「常識」だよね)

 悠人は心の中でつぶやいた。

(でも、男子の言いなりになるのも、教室で裸になるのも、もう「常識」なんだ。そう考えたら、受け入れるしかないよね)

 相反する二つの「常識」が、梨枝の中ではなんの矛盾もなく成り立っている。そのことにほくそ笑みながら、悠人はうずくまった梨枝を見下ろした。

(まぁ、みるくちゃんと琴莉ちゃんが脱ぎ終わるまでは、このままにしておいてあげようか。ほら、ボクってやさしいからさ)

 そんなことを、心の中でうそぶいた。

「ほら、牛島さんも、はやく脱がないと。他の女子たちを待たせちゃ、悪いよ」

 悠人がやさしく促すと、男子たちからふたたびクスクスと笑い声がもれた。

 一方、残りの女子たちはさらに深くうつむき、肩を小刻みに震わせながら視線をそらした。

 悠人は、恥ずかしさに消え入りそうなみるくの瞳をじっと見つめた。

 みるくは、まだ下着を身に着けているにもかかわらず、両腕を身体の前で固く組み、胸を必死に隠そうとしている。

 それでも、とうとう観念したのだろう。あるいは、悠人が書き換えた「常識」に従うしかないと受け入れたのかもしれない。震える手がゆっくりと動き始めた。

 梨枝とはちがい、みるくは先にショーツへ手を伸ばした。それは、先ほどまで着ていたロリィタ風ワンピースに合わせた純白の木綿地に、たっぷりのフリルと繊細なレースをあしらった、乙女っぽくて愛らしいデザインだった。

 小さく息を吐くと、みるくは一気にショーツを下ろした。細い脚を震わせながら足首から抜き取り、その場にしゃがみ込んでしまう。男子たちが一番見たがっていた部分は、残念ながら脚の間に隠れてよく見えなくなってしまった。

 続いて、背中に手を回し、ブラジャーのホックに指をかけようとしたが……。

(いやぁ、服の上からでもわかってたけど……これは本当にすごい)

 悠人は思わず息をのんだ。

 教室中に静寂が落ち、男子たち全員が食い入るように見つめている。誰もが息をするのも忘れたような、圧倒された表情を浮かべていた。

 みるくの胸は、クラスの他の女子とは決定的にちがう。「名は体を表す」ほどの圧倒的な巨乳だった。いや、爆乳といったほうがいいかもしれない。

 ショーツとおそろいの純白のブラジャー。そのホックを器用にはずした途端、やわらかく重い乳房が「ぷるんっ」と大きく揺れながら解放された。白くたわわな乳肉が重力に逆らうように弾み、教室の照明の下でまぶしく輝きながら波打つ。大きすぎるそのふくらみは、まるで熟れた果実のようだった。

 みるくは慌てて左腕でそれを必死に抱きかかえるように隠した。しかし、ボリュームがありすぎて完全に覆いきれず、ふっくらとしたお肉が腕の両側からはみ出し、指の間からも零れ落ちそうになっている。

 それでも、みるくは右手だけで下着をていねいにまとめ、ロリィタワンピースの上にそっと置いた。大切な服を傷つけないように気遣う仕草が、彼女の性格をそのまま表していた。

 今や、顔を伏せて小刻みに震えている梨枝と、巨乳を必死に隠しているみるく。そんなうずくまった二人を軽く見下ろしたあと、悠人は残る一人、琴莉へとやさしく声をかけた。

「ほら、皆野さん。もう、杉本さんと牛島さんは、男子の言いなりになったよ。いつまでもぐずってないで、二人と同じように、はやく脱いで裸にならないと」

 だが琴莉は、ただ首を小さく横に振るだけで、すっかり怯えきっていた。大きな瞳からは、ひと筋の涙がポロリと流れ落ち、唇をわなわなと震わせている。

 悠人は一瞬焦った。

(ひょっとすると琴莉ちゃんには、ボクの力が効いていないのか?)

 だが、すぐに理解した。琴莉も「常識」としては裸にならなければならないとわかっている。ただ、小さな子どものように、怖くて身体が動かないだけなのだ。

(なら、いいこと思いついた)

 悠人は少し腰をかがめて、琴莉の目線に合わせた。

「ねぇ、琴莉ちゃん……」

 口調を完全に小さな子をあやすような、やわらかくやさしいものに変えた。呼びかたも、変わっている。

「琴莉ちゃんは、悪い子じゃないよね? 男の子の言いなりにならないとダメだって、わかってるよね?」

 ゆっくりと語りかける。

 琴莉は小さく、コクリとうなずいた。

(やっぱり、ボクのチカラはちゃんと効いてる)

 悠人はホッとした。

「でも、琴莉ちゃんは自分で裸んぼになれないみたいだから……クマさんに、脱がせてもらおうか?」

 やさしい声のままそう言うと、琴莉は一瞬「えっ?」という表情を浮かべた。

 指名されたクマさんこと熊田も、突然の展開に目を丸くしている。

「だって、クマさんが琴莉ちゃんを推したんだからさ。ちゃんと面倒を見てあげないとね」

 悠人は微笑みながら告げ、ふたたび琴莉に向き直った。

「それでいいよね、琴莉ちゃん? クマさんに、裸んぼにしてもらおうね?」

 じっと瞳を見つめ続けると、やがて琴莉はうなずいた。

 悠人は満足げに笑みを浮かべ、優等生らしい穏やかな声で熊田を呼び寄せた。

 当然、熊田の中の「常識」もすでに書き換え済みだ。それでも、最初こそ戸惑った様子だったが、すぐに穏やかな表情になった。彼は体格の良い大柄な男子だが、声も動作も驚くほどやさしかった。

「大丈夫だよ、琴莉ちゃん。怖くないからね……」

 低いけれどやわらかい声でささやき、まるで本当の小さな妹の面倒を見るように、かいがいしく手を動かし始めた。

 まずは半袖の木綿スリーマーの裾に指をかけ、ゆっくりと持ち上げる。それは淡いピンクのやさしい色合いで、胸の部分には小さなハートとリボンに囲まれた大きなファンシーキャラが、花を抱えて微笑むイラストがプリントされていた。袖口と首回り、裾にはかわいらしいアイレットレースが施され、明らかに幼児向けのデザインだった。

「はい、バンザーイ……」

 琴莉はおとなしく両腕を上げた。熊田はていねいに頭と腕を抜き取る。その動作はとても慎重で、まるで壊れ物を扱うようだった。

 続いて、ショーツ……いや、お子様パンツというべきか。純綿のとてもやわらかい素材で、ウエストと脚周りに太めのゴムが入った、インゴム仕様。おへそまで届く広い前布には「Let’s Play with the Moon♪」という大きな文字とともに、月の下で跳ねる擬人化された動物たちの愛くるしいイラストがプリントされていた。まさに幼稚園児や低学年向けの子どもパンツそのものだった。

 熊田は大きな手でウエスト部分をやさしく掴むと、足首まで滑らせた。「ゆっくりでいいからね」という穏やかな声に、琴莉は片脚ずつ素直に上げて協力する。

 脱がせたスリーマーとお子様パンツを、熊田はていねいにたたんで床の服の上に置く。

 その間、琴莉の表情は少しずつ変わっていった。最初は全身をこわばらせ、涙を浮かべていたのに、クマさんの穏やかな大きな手でやさしく脱がされるうちに、肩の力がわずかに抜け、恐怖の色がほんの少し薄れていった。

(クマさん、やっぱやさしいな。それとも……琴莉ちゃん相手だから、特にかな?)

 悠人は内心で感心しながら見守った。

「ありがとう、熊田くん。席に戻っていいよ」

 すると琴莉も、小さな声でぽつりとつぶやいた。

「……ありがとう、クマさん」

 その声はとても小さかったが、素直で、ほんの少し安心したような響きがあった。

 熊田によって裸にされた琴莉は、梨枝やみるくのようにしゃがみ込むことはしなかった。ただ突っ立ったままだ。そして、まるで小さな子どものように、ただ不安げに周りを見回しているように見えた。だが、その瞳には先ほどまでの強い怯えは薄れていた。

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